「オレの膝を使わせてやる」
「……へっ?」
真ちゃん家にお邪魔した日。
部屋に入ると同時に放たれたまさしく爆弾発言はオレになかなかのダメージを与えた。
いま、なんて言った?
とか怖くて聞き返せない。
あの真ちゃんが。バスケとプライドと理性で出来ています、な真ちゃんが。そんなまさか膝枕してやるとか言い出すわけが。
「いつまで突っ立っている、早く横になって頭を貸せ」
あ。幻聴じゃなかった。
「ど、どうしたの真ちゃん……具合でも悪い?なんならオレが膝枕してあげよっか??」
「具合など悪くない。いいから早く横になるのだよ」
自分の膝をトン、と示す真ちゃんは至って真顔だ。オレがギリギリ冗談混じりに聞き返した台詞もあっさりと受け流されてしまう。
もはや逃げ場はないらしい。
ノロノロと床に座れば、さあこいと言わんばかりの期待に満ちた眼差し。
「……真ちゃん」
「何か不満があるのか」
「いや、不満ってか……あのさ、正座だと真ちゃんが疲れちゃうと思うから、もっと楽な感じでいいよ?」
正座で膝枕とか、乙女か。
だいたい何で突然こんなことを言い出したのかとか色々気になることはあったけど、素直に足を崩してくれた真ちゃんにもう腹を括ってお膝を御借りすることにした。
ゴロンと仰向けに横になれば、宝石みたいな緑の眼に見下ろされる。
不意にテーピングの巻かれた指が、サラリとオレの髪をすいた。擽ったいような、きもちいような。不思議な感覚。
「ねー真ちゃん。オレ、真ちゃんに膝枕してもらう日がくるとか思わなかったわー」
「オレも正直予想もしていなかったのだよ」
「あ、もしかしておは朝?」
今日は相棒を膝枕するといいことあるでしょー、的な内容だったとか?……いやないか。
オレのテキトーな問いかけに真ちゃんは僅かに口ごもった。
「……以前」
「……ん?」
何か寝転んで頭撫でられてたら微妙に眠くなってきた。
フワフワした思考の中でも降ってくる声は聞き逃すまいと意識を集中させる。
「以前、オマエが言っていただろう」
え。オレ、何か言ったっけ。
ああダメだ、昨日遅くまでゲームとかすんじゃなかった。襲い来る睡魔に勝てる気がしない。
「……高尾?」
意識が落ちる直前に、真ちゃんがオレを呼んだ気がした。
(好きなひとの膝枕で眠れたら、幸せだろうね)
(そう、言っていたから)
(13/2/7)
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