甘めに浸して



さて。どうしたもんか。



普段は遠巻きにされてるのに、さすがにバレンタインという今日は女子によくおモテになるこって我らがエース様。
本人はえらく狼狽えてるみてーだけど。








「意味がわからないのだよ……」

「ちょっと真ちゃん、女子の好意を意味わからん扱いはないでしょ」

「突然見も知らない人間に囲まれ必要もない物を押し付けられた方の身にもなってみろ」

「超テンパってたよね」





そんなことはないと訴える真ちゃんをヨソにオレの内心は複雑だった。

必要もないもの、ね。

そりゃ真ちゃんがイベント系で盛り上がるタイプじゃないのは何となく予想はついてたし、逆にバレンタインだからってソワソワしてる姿とか見たくないっつーかあり得ねえけどさ。
チラリと、バックの方に視線を投げる。



渡せんのかなあ。



オレの好意は。










そうこうしてる内にあっという間に放課後になって。練習を終えて帰路につく頃、外は雪が降り始めていた。

真ちゃんと他愛ない話をしながら並んで歩く。





「結局、かなりの量になったなー」

「オマエも結構貰っていたろう」

「ははっ、真ちゃんに比べたら全然だけどね」

「フン……」





上手く笑えてんのか。
正直ちょっと分かんねー。
何かいつも通りに接しすぎて、完全にタイミングを見失ってしまった。
もうすぐ、真ちゃん家に着いてしまう。

自然と歩みが鈍くなって、終いには立ち止まってしまった。

少し進んだところで、オレが止まってるのに気づいた真ちゃんが振り返る。





「何をしている?」

「あ、あのさ、真ちゃん」

「?何だ」

「いや……あー……」





言いにくい。めっちゃ言い難い。

見下ろしてくる視線を感じながら固まっていたら、はぁ、と溜め息をつかれて肩がビクリと震える。
やべ、怒らせたかも。

こんな寒いなか家直前にして立ち往生させるとかまじないよな、オレもそう思う。

焦りとか悲しいのとか情けないのとかで頭が働かない。
ますます言葉が出てこなくて、でもこのまま帰ってほしくはなくて。
オレはとにかく真ちゃんを引き留めようと視線を上げた。ときだった。





「早く出せ」

「はっ?」

「その鞄の中に入れているものだ。早くしろ、こんな寒いなか二人で棒立ちなど間抜けにも程がある」

「えっ、え?!真ちゃ……、えぇぇ!?」





呆然とするオレに痺れを切らしたのか、真ちゃんはバックを引ったくると勝手にそっからラッピングされた袋を拐っていった。





「は、ちょ、真ちゃんそれ……っ」

「何だ?オレに渡すつもりだったのだろう」

「いやまあそうなんだけどね?!」

「ならば何も問題ない」

「……っ、真ちゃんには必要ないもの、じゃねーの?」





羞恥心とかも相まって咄嗟に口をついて出たのは、皮肉っぽいセリフで。言ったあとにしまったと思ったけど真ちゃんは怒るどころか表情一つ変えず、こう宣った。





「高尾、オマエからの好意の形がこのチョコレートならば、オレが受け取らない理由はないのだよ」





これだから、うちのエース様は。





「真ちゃん」

「何だ?まだ何かあるのか」

「……ハッピーバレンタイン」








(ホワイトデー、楽しみにしてるわ)



(13/2/7)



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