春。
この桐皇に入学してすぐ。
バスケ部の練習をサボって屋上で寝ていたオレを呼ぶ声に目を開ければ、そこには知らないヤツがいた。
鋭く見下ろしてくる視線と不釣り合いなほどの笑顔。
そいつは高尾と名乗り、一言「緑間を負かすの、協力してよ」と笑った。
「はーい、見つけましたあ。部活行きましょーか青峰クン?」
「……高尾」
絶対にここなら見つからねえだろうと思った空き教室。でも聞き慣れすぎた声に瞼を上げれば、此方を見下ろす高尾が視界に入った。
コイツは、まじでどこにいても見つけてくるな。
自然と眉間にシワが寄る。
「毎日毎日……オマエの執念まじスゲーな」
「ふはっ!執念とかねちっこいのヤメテくんない?ただオマエと一緒に練習したいだけだからオレ」
「……自分が強くなりたいから、だろ」
「それ以外に理由がいんの?」
高尾は春以来、練習前に必ずオレを探しに来るようになった。
時にこっちが戸惑うくらいの甘い言葉を並び立てて、時に戦慄を抱く程の冷めた言葉を放って。
そんなコイツの根底にあるのは、たったひとつ。
眉間にすっと指を這わされ、微笑む高尾から視線を反らせない。
「春に初めて会ったときに言ったろ?オレは……緑間真太郎……アイツに勝つために桐皇に来た、って」
中学時代、オレらがいた帝光と、高尾がいた中学は一度だけ試合をしたことがあるらしい。
ぶっちゃけ、オレがその試合を覚えていないように、緑間も覚えていないと思う。
けどその一度きりの勝負が、コイツを駆り立て、桐皇へ導いた。
「オレには青峰が必要なんだよ」
「……ッ」
何度も何度も繰り返される言葉の裏に潜み、先へ続くものが元チームメイトの存在だと分かってはいても。
「さ、ってなわけで行きましょーかエース様」
高尾の今が、オレと共にあること優越感と安心感を抱いている自分がいる。
その目に惹き付けられる。
理由なんて、もう分かりきってんだ。
隣を歩く高尾は、いつもと変わらない笑顔で。
「高尾」
「ん、なに?」
「オマエ……バスケ好きか?」
「は?」
オレの唐突な問いに一瞬ポカンとした高尾は、すぐにまた笑った。
「好きじゃなきゃ、ここまでやってこれてないって!」
コイツがどれほどの負の感情と戦ってるかなんてオレは知らない。
それでも、バスケを好きで居続けるオマエは。
(今のオレたちより、よっぽど眩しい)
(13/2/14)
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