「おい高尾、なにぼーっとしてんだ?具合でも悪いのか?」
「……えっ?大丈夫っすよ」
「?……だったら早く片付け合流してこい」
「はいはい」
「おま、何だその返事は轢くぞ」
「へーい、すんませんでしたぁ。高尾君いってきまーす」
宮地サンは同じバスケ部スタメンで、オレの好きなひと。で、恋人。
物騒な発言の多い人だけど実はスゲー努力家な2コ上のセンパイ。
元々オレが絡んでっていなされてる感じだったのが、いざ付き合いだしてみたら何かむしろ構い倒されるときがあって今までとのギャップに距離を測りかねている。
そりゃオレの方が年下なんだし素直に甘えたらいいんだろーけどさ。
(!!い、いやそもそも別に甘えたいわけじゃねえから…!!)
熱のこもる頭をムリヤリ振り払って、オレは一年メンバーの片付けに合流する。
練習後の体育館は熱気に満ちててくそ暑い。Tシャツの襟元を手繰って汗を拭う。
用具を片してたら、一瞬の目眩とともに少しだけ体がぐらついた。
やっべえ転けるかもと身構えてもその衝撃はこなくて。不思議に思って後ろを見れば、オレの身体を支えてくれる宮地サンの姿。
「オマエ、まじ体調悪いんじゃねーの?」
「いやっ……ちょっと立ち眩んだだけなんでヘーキです」
慌てて身体を起こすと、近くにいた緑間が表情を険しくさせてるのが目に入った。
「……高尾、顔色が悪いのだよ。後の片付けはいいからオマエは向こうで休んでいろ」
「え、なに真ちゃんが優しいとか」
「馬鹿を言ってないで早く行け」
「ははっ、ありがと真ちゃん」
「……別に礼を言われるようなことはしていないのだよ」
不器用な気遣いに思わず笑みが零れる。
でも皆が片付けてんのに自分だけ休んでるのもなって迷ってたら、いきなり宮地サンに腕を掴まれ。何事かと尋ねる間もなく歩き出すもんだからオレも引っ張られていく。
人気のない渡り廊下の方まで進んだ辺りで、やっと立ち止まった。
「宮地サン。腕、痛いんすけど離し……」
「オマエさ、ほんとは緑間が好きなんじゃねーの?」
「……はァ?」
何を言い出すんだこの人。
そういう意味をこめて見上げたらなぜか苦しそうに眉を寄せる宮地サンが視界に入って、オレまでなんかつられて苦しくなる。
「人の心配にはヘーキだ大丈夫だなんて言ってるわり、緑間には「ありがと」ってなんだよそれは」
「え、あ……」
「オレが触ったらやれイヤだ離せ離れろのクセに、緑間には自分からベッタベタ触りに行きやがって」
「別にそんな離せとか言って」
「んだろ、実際さっき言ったばっかじゃねえか」
「ッさっきのは、掴む力が強かったからで!……っオレ、宮地サンに触られるの好きだし……!!」
「……は?」
あ、れ?
いま何て言ったオレ。
「……」
「……!!ちょ、このタイミングで抱きしめるとか意味、わかんないんですけど……!」
「高尾、オマエまさか……」
グッと覗き込まれて思わず顔を背けるけど、たぶんこの近さだとオレの赤くなった顔は丸見えだ。
「恥ずかしいだけ、とか?」
「ち!違います!!」
「ふーん?じゃあこの顔はなに?」
「あ、あ……暑いだけ!」
「ぶはっ!!」
我ながら苦しかったとは思う。
爆笑する宮地サンに恨めしい視線をおくるけど、返ってきたのは柔らかい笑みで。
やっぱりこの人は一枚も二枚も上手なんだと再確認させられる。
「高尾、もっと頼れよ」
「もう十分頼ってますし」
「足りねー」
「……っ」
フワリと頭を撫でる優しい手にそろそろ降参せざるを得ないことを薄々感じながら。
「たぶんオマエが思ってる以上に……オレ、オマエのこと好きだから」
もう少しだけ、待っててくださいと。
心のなかで呟いた。
(素直に「オレも」って伝えられるまで)
(13/2/10)
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