(※黒高大学生設定)
「黒子ー。飯できたけどー」
「……、高尾君。キミ、馴染みすぎじゃないですか?」
「え」
ジャラジャラと首輪についた鎖を引き摺りながら僕を呼びにくる彼。
高尾君を薬で気絶させてこのマンションに連れてきて逃げられないよう首に鎖を繋いだのは、五日前のことだ。
ずっと、傍にいたい。
ずっと、傍にいてほしい。
その気持ちが堰を切ったように溢れて、僕を突き動かしたんだ。
でも、横たわる彼を見たと同時に不安が襲って。ただ目覚めたときに彼に拒絶されることだけが怖くて、怖くて仕方がなかった。
目覚めた彼の瞳に、僕はどう映るのか。
その日の夜。
キッチンに行っている間に覚醒したらしい高尾君は最初こそ現状理解に戸惑っていた様子だったけれど。僕の姿を見留めると、信じられないことに、笑ったんだ。
やっぱり、僕は間違ってなかったと彼を抱き締めれば、背中を擦る彼の手の温もりを感じた。
それから今に至るまで、彼は特に不平不満を言うでもなくここで生活している。
正直、此方が不安になるほどそれが当たり前のように。
「……高尾君」
「ん?どした?何か嫌いなもんでもあった……ってオマエが買ってきたもんしか使ってねーからそれはないか」
「高尾君は、不安にならないんですか?」
食事の手を止めて尋ねた僕に高尾君の視線が注がれる。
それだけのことで僕の心が喜びに満ちていくのを、たぶんキミは知らない。
「んー…ぶっちゃけ大学無断欠席だわーとか、騒ぎになったりしてないかなーとかは心配だけど」
「そう、じゃなくて」
「黒子は不安?」
「……ッ」
それは、全て見透かしたような柔らかい問い掛けで。
重なった視線を反らすことができないまま、僕は言葉を失う。
「オレはオマエを嫌いになったりしてねーし、これからもたぶん、嫌うことはないと思う」
そう言って微笑む彼を。
やっと、捕まえたと思った。
「黒子はオレがほんとに嫌がることはしないって分かってるから、ここにいろって言うならムリして出ていこうとも思わないし」
いつだって僕の手の届く鳥籠のなかにキミを捕らえて、誰にも侵されない場所に置いておけると。
「なあ、黒子」
だけど。
「オマエは、いま、幸せ?」
(その羽はきっと、)
(僕に手折ることはできない)
(13/2/8)
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