「……っ、やっぱ、ダメ……かもっ」
「だぁいじょぶっスよ、高尾っち。痛いのは最初だけっスから……」
「んっ、…ま、待って黄瀬くん……」
合宿中、廊下を歩いていたら不穏な会話が聴こえてきた。
しかもどちらもよく知る声で。
全力で廊下の角を曲がれば、涼太が和成の耳に触れている姿が視界に飛び込んでくる。
「……オマエ達、何をしている?」
「あれ?赤司」
「赤司っち?どうしたんスか?」
「僕の質問が聞こえなかったのか?」
問いかけに問いかけを返してきた涼太に微笑めば、ちゃんと意味を捉えたらしい。
慌てて「高尾っちに頼まれてピアッサーしようとしてたとこっス!」と姿勢よく答える。
ピアッサー……だと?
「和成、まさかとは思うが……その耳朶に穴を開ける愚行に及ぶつもりだったのか」
「ちょ、愚行って」
いつもの調子で笑う和成。
その左側の髪は多数のピンで留められ、通常より耳が露出されている。まっ白なそこはきっと触れれば柔らかいのだろう。
まだ僕が味わったことのない和成のその場所に…穴を開ける、だなど。
「僕は許した覚えはないぞ」
「お父さん?!」
至って真面目に言えば涼太が横からチャチャ入れしてくる。
一瞥くれてやれば静かになったから改めて和成に向き直った。
「いや別に赤司の許可は聞いてねえけど……」
「だいたい何故いきなりピアスを開けようと思ったんだ?必要ないだろう」
「いや前から開けたいなーとは思ってたんだよね。黄瀬くんの片耳だけのやつカッコイイし」
「!高尾っち……!!」
「涼太、誰が発言を許可した?」
「すんません」
「ちょ、黄瀬くん悪くないっしょ!」
「!!高尾っちぃぃっ!」
涼太がいると話が進まない。
それは最初からわかっていたはずだろうと内心で自分を叱咤し、和成の腕を取って歩き出す。
不思議そうにしながらも和成が僕に逆らうことはなく大人しくついてきた。
少し離れた辺りでもう一度顔を向き合わせると、油断しきっているその左の耳朶を甘噛みする。
「…ァッ!なっ、なにして!?」
「ん……っ、やはり、柔らかかったな」
「へっ?」
ふに、と形を変えるそこを味わうように舐める。
和成の手が動いたから一瞬警戒するがそれは意思に反して上がる声を抑える為か、自らの口を塞ぐに留まる。僕を突き飛ばすなり何なりすれば良いものを。
オマエのそういう他人に甘いところに、皆が付け入るんだよ。
満足いくまで蹂躙してやった頃には和成のそこは大分熱をもっていた。
「……っ、赤司……いきなり何なの?舐めるとかマジ意味わかんねー」
「和成にピアスなど必要ない」
「いやいや、だから何で……」
「もし肌に合わず膿んだりしたらどうする?せっかくの綺麗な耳朶が穢れるなど、我慢ならないからな」
「……ッ」
驚いた表情で此方を見つめる和成が「もうちょっと、考えてみるわ」と呟くのは、もう少しあとの話だ。
(僕の意思以外で、穢れるオマエなど見たくない)
(13/2/8)
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