例えば人が生活をしていくなかで関わる多くのものは、無くなっても生きていけるものばかりかもしれない。
後を追い命を絶つ程に必要としているならば最早それは依存に近いだろうし、オレは何かにそこまでの執着を持つことはなかったように思う。
だが同時に人間とは贅沢な生き物であることもこの二十数年の人生で、ある程度理解はしてきたつもりだ。
一度得てしまうと、失うことを恐れる。
手の内に収めておきたくなる。
理性と欲求の狭間でジレンマに苛まれる。

時に滑稽だと笑いながら愛しいと思うことをやめられないのは、アイツに出会ってしまったからだろう。










グラスのなかの氷が音をたて、水面に浮き上がるように意識がゆっくりと戻ってくる。
リビングはすっかり暗くなっていた。
相変わらずそこに第三者の気配は無い。



「静かなものだな……」



学生のときのように騒がしくすることは無くなったと思っていたが、アイツ一人が居ないだけでこんなにも部屋が閑散として見えるものなのか。
携帯のディスプレイが光り日付を跨いだことがわかった。

自分の記憶と予想があっていれば、あと二十四時間後には高尾は戻ってくるだろう。
グラスの水滴を指でなぞる。



「……早く戻ってこい、高尾……」





まだ睡魔はやって来そうもない。

20××年7月5日夜




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