「高尾……何か言いたいことでもあるのか?」

「……オレ、真ちゃんて声低い低いと思ってたけど、やっぱりちゃんと高校生の声だったんだね」

「いきなり何だ。意味が分からん」





席を向かい合いっこにして一緒に弁当食べてんのは高校生の真ちゃん。
懐かしい学ラン姿に朝イチは思わず惚けちゃって不審感に満ちた眼差しを貰ったものの、一度は経験した学生生活だ。
その後は何の問題もなく時間を過ごしてはいるけど……この不思議体験はいつまで続くんだろうか。

オレは確かに高校を卒業して、成人をして、社会人として働いてきたはずで。
そしてオレの歩んできた道筋にはいつも、何やかんや言いながらもこの目の前で缶のおしるこつめた〜いを啜る男……緑間が居た。
でも多分、この緑間は同じで違う。
きっとコイツはまだ知らない。
今よりももっともっと沢山の時間や想いを積み重ねた先に、オレの知っている緑間がいるんだ。





「や、別に?ただ真ちゃんの声好きだなーって」

「……ッ、ば、馬鹿か貴様は何を言っているのだよ…!」





にしても学生の頃の真ちゃんてこんなシャイだったっけ。
からかい半分本気半分でちょっと触れてみたり好きって口にすると、過剰に反応するから面白い。
大人になってからは余程の事がないと動揺しない……というか動揺を見せなくなったし。
若いっていいなぁ、なんて年寄り臭いことを考えながら「ね、真ちゃんそれ一口ちょうだい」と声を掛けたら「自分で買いに行け」と睨まれてしまった。





笑いながらも、漠然とした不安に苛まれるのはきっと。
どんだけ思い出そうとしても、高校三年の今日という日の記憶が思い出せないでいるせいだと思う。








(ぽっかりと、抜け落ちた)


20##年7月5日正午




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