『そして7月5日金曜日、今日の一位はさそり座のあなた!ラッキーアイテムは……』





あれ。いつからTV点いてたっけ。
少しボーッとしていたのか。とりあえずリビングにいるはずのアイツに呼び掛けようと顔を上げる。





「真ちゃん、起きたなら声掛けて、よ…… 」

「え?何?」

「…………え、?」





そこに居ると思っていた人物に投げた言葉は、とんでもない形で返ってきた。いや、知らない顔じゃない。ない、んだけど。





「ええぇぇぇ……っ妹チャン、が、若い!!」

「はぁ?何当たり前のこと言ってんのお兄ちゃん……頭大丈夫?」

「ぶは!ちょ、人をキチガイみたいに言うのヤメテ…!!じゃなくて!」





なんで社会人になってもう随分と経ったはずの妹チャンが、学生服を着ているのか。その姿があまりにも懐かしくてまじまじ見つめたら思いきり訝しそうに眉を潜められた。





「ていうかお兄ちゃん。そろそろ出ないと間に合わないんじゃないの」

「えっ」

「えっ、じゃなくて。ほら、時間」





妹チャンが指した時計の示す時間に感じた既視感。

そうだ。
オレはこの時間になると、いつものように家を出るんだ。
エース様をお迎えに。



でもそれは“あの頃”のオレの習慣であって、今となってはもう忘れかけてさえいた事実。

憧憬にも似た感情に戸惑っていたら、呆れ顔の妹チャンに「前みたいに緑間さんに置いてかれちゃっても愚痴とか聞かないからね?」と背中を押される。





玄関先に置かれたエナメルバックは使い込まれオレの肩に馴染んだもので。
オレの知る母さんより幾分か若い母さんに見送られて、オレは家を後にした。





混乱が僅かに落ち着いてきた今、向かう先はもう分かっている。








(この道はどこへ続くのかと尋ねる人はいない)

20##年7月5日午前




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