「……遅いのだよ、高尾」

「しんちゃん!」



リビングに突然飛び込んできた高尾を抱きとめ一緒に床へ座り込む。
喜色満面なその顔は「あのとき」見たものと変わらない。



「待った?」

「ああ、もう十年近く、待っていた」

「ははっ、だよねー」



悪びれもせずケラケラと笑う高尾につられて、自然と口角があがる。

あの日のオレは、緊張のあまり言葉を巧く紡げなかった。

それでも、“高尾”が、手を伸ばしてくれたから。



「あの日のオレに会ってきたんだろう?」



絡めたオレの指に光る控えめなグリーンに高尾ははにかむ。



「うん。真ちゃんずっと身に付けてるからちょう気になってたんだけど…そのリング、オレのプレゼントだったのな」

「ああ」



あのあと暫くは状況が理解出来なかったが、オレはひとつの予想を立てた。オレの希望も入った、仮説を。

突然「未来」を口にしたあの時の“高尾”。
いつもより落ち着いた雰囲気で、高校生が買えるはずもないようなプレゼントをオレに渡し、そのまま日付を跨ぐ前に一度気を失った“高尾”。
だが、答えはオレが人事を尽くしさえすれば何れの未来で知ることになるだろうと、高尾には告げずにいた。
何故なら意識が戻った高尾は、何日か分の記憶がごっそり抜け落ちていたから。

そして、結論から言えば、オレの仮説は当たっていた。
オレに会いに来た“高尾”は、今ここにいる。



「未来のオレに口説かれてどうだった?真ちゃんが本気になってくれたのってもしかしてオレのおかげだったりする?」

「……馬鹿め、オレはあの日はじめからオマエに告げるつもりだったのだよ。ただ……オマエが気を失ったから、予定が延期になったまでに過ぎん」

「そう?まぁオレとしてはどっちみち卒業までに真ちゃんと気持ちが通じ合えたから、いいんだけどさ!」

「……だが、あの日のオマエの言葉を忘れた日は、今まで一度もないのだよ」

「……っ」



純粋に、そうなりたいと思っていたから。

先の未来も寄り添い、隣を歩んでいけたらと。
そして願わくば、想いが通じ合えば良いと。



「嬉しかった。オレ自身、オマエとの未来を信じていたかったからな」

「…しんちゃん……、それはズルいよ……」

「?何がだ」

「……だってオマエはオレが平和に残りの学生生活をエンジョイしてる内から、オレとの未来を想ってくれてた、ってことだろ?」



そう言うことになるのだろうか。
だが、それは。



「その時間は……オレにとっての幸福だったのだよ」

「へっ?」

「来るオマエとの未来は明るいのだと、“オマエ”が標していったのだからな」

「……真ちゃん」





微笑みあうことのできる今という未来を、オレたちは互いの力で手にしたのだと疑っていない。

そしてこれからも、手離しはしない。








「ずっと“オマエ”と出会うのを待っていたのだよ、高尾」








高尾の明るい色の瞳が、まっすぐにオレを射抜く。








「真ちゃん。誕生日おめでとう」








最高の笑顔と、甘いキスを交わして。








「だいすきだよ」








これからも、隣を歩いていこう。







20××年7月7日深夜




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