むかしむかしの








「なあ、黒子。赤ずきんちゃんって最後どうなるんだっけ?結局助かるんだよな?」

「は?」





朝食の時間に相席した高尾君の口から奇妙な話題が飛び出して、僕は思わず素で聞き返してしまった。

聞き間違いでなければ、その、某童話の主人公の名前が聞こえた気がするんですが。





「あれ、まさか赤ずきんちゃん知らない?」

「いえ知ってますが…高尾君の口から突然のグリム童話の話題が出たことに驚きを隠せませんでした」

「ああ、そっちね」





ケラケラと笑いながら彼は「昨日の夜に妹からいきなりメールきてさ。赤ずきんちゃんって結局ラストでどうなったかっていきなり聞かれてからめっちゃ気になってたんだよな」と説明してくれる。





「黒子なら色んな本読んでそうだから知っ……」

「なんの話っスかー??」

「……黄瀬君、朝から元気で何よりですが高尾君の言葉を遮ってまで乱入するのはどうかと思います」

「あはは、黄瀬くんおはよ」





いきなり湧いて出た黄瀬君に告げれば「ごめんごめん」と心の入ってなさそうな謝罪がひとつ。

全くほんとに空気の読めない人だなと思えど口には出さずにおく。





「改めておはよ!高尾っちに黒子っち!で、何の話だったんスか?」

「いや、赤ずきんちゃんのラストについて」

「……童話の??」

「元を辿れば民話、ですけど」

「あ。やっぱり黒子知ってる?」





こくりと頷いたら子供のように好奇心に目を輝かせる高尾君。彼が童話や民話に興味をもつなんて、ちょっと意外な気がしないでもない。





「そこまで詳しくはないですよ……ただ、童話によくある話なんですが、時代が進むと同じくして物語の内容が改編されるというのはよくある話らしくて」

「えっと、つまり」

「赤ずきんが助かる話は主に途中から付け足されたもので、もとの民話や初期のペロー童話などでは赤ずきんは狼に食べられたまま話が終わったりします」

「まじか。赤ずきん消化されて終わりとか…」





身も蓋もないような話だけれど、狼に食べられその後銃殺された狼の腹内部から少女が助け出される、という内容の方が僕はあまりにもな気がしなくもない。

高尾君は少し考えたあと「とにかくイイ子は道草すんなって話だろ」と笑った。
まあその教訓もあとからついたそうなんですけどね。





「もし狼さんに襲われそうなのが高尾っちならオレすぐに助けに行くっスよ!」

「いきなりどーした黄瀬くん」

「黄瀬君、そもそも狼が高尾君を襲う前提からして意味が分からないです」

「やだなー黒子っち!ここには狼がいっぱいいるじゃないっスか!!」

「ああ……そういうことなら僕も全力で阻止しますが、キミも含めて」

「えぇぇっ?黒子っちヒドッ!!」

「え、なに。どういうこと?この辺狼とかいんの??」





小さく呟いた言葉は都合良く黄瀬君にしか届かなかったみたいで。高尾君は案外と真顔で窓の外を見ている。
その姿は確かに無防備で狼に喰われてしまう危険性は高い。かもしれない。
勿論させませんが。





「あ。そうだ、黒子サンキューな、すっきりしたわー」

「いえ、僕にわかることなら何でも聞いてください」





そう告げれば笑顔が返ってきて自然と此方も表情が緩む。
本当に、彼は不思議な人だ。





「……黒子っちって、高尾っちといるといっぱい喋るよね」





そう呟いた黄瀬君の言葉には「そうですか?」と惚けておいたけれど。








(ねー高尾っち的にはオレら童話のキャラだと何っぽい?)
(え。そうだなぁ……黄瀬くんは人魚姫の王子か幸せの王子で)
(……それどっちも最後悲しい感じじゃないっスか……?)
(黒子はシンデレラかな)
((え))
(え?)



(13/2/18)





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