宮地サンと溢れた水








「水って零れちまったあとほっといたら自然と空気に還るもんなんですかねー」





いつか高尾がぽつりと呟いた言葉の真意をオレは捉えることができなかった。










学生時代から付き合いはじめた高尾とは、大学卒業して仕事就いてからもなんとなく続いていた。
時間の合うときに高尾がオレん家に来て飯作って、一緒にダベりながら食ってスルことシて。

会う回数は極端に減ってもアイツがなんも言わなかったのは、オレに気を使ってたのか。

そのときは特に深く考えもせず、これからもこんな関係が続くんだろうなと思っていたけど。



別れは唐突にやってきた。



大学が休みの日に家に来てた高尾が、帰ってきたオレに飯を出しながらいつもと変わらない調子で切り出したんだ。





「今日でサヨナラしません?」





それはまるで明日の朝はパンにしません?くらいの気軽さで。面食らって言葉が出ないオレに高尾はヘラリと笑った。





「宮地サン、最近忙しいし、オレもなかなか時間合わせらんないし」





穏やかな表情がやたらと琴線を刺激する。





「会う時間ならテキトーに作りゃいいだろ?」

「でもこれからもっとやること増えたら、たぶん今以上に会えなくなっちゃいますし」

「会えなきゃ付き合ってる意味がねえってか」

「……」





冷たく告げた言葉を、アイツは肯定も否定もしなかった。

ただ。寂しげに笑って「すみません」と呟いただけだった。



去り際。
最後に聞いた高尾の言葉も結局、その一言だった。








別れてから気づいたのは、アイツがどれだけオレの深いとこに居座っていたかということ。
会う時間こそ少なくても違和感を感じず確かに在ったのは、生活の一部と化していたから。その存在の消失はオレに確かな喪失感を与えた。



でも、自覚してからじゃもう手遅れだ。



溢れた水は、もう器には戻らない。





高尾は気づいていた。



水が、溢れかけてることに。

そして、それを静かに伝えていたことに、オレは気づけなかった。





アイツの私物が消えた部屋は、何となくガランとして見えた。



それが、今のオレに残った事実だ。








(水は空気に還ったりしない。染み付いて、いつまでも残る)



(13/2/16)




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