黒子の誕生日









「よっ、黒子」

「!……どうして高尾君が誠凛に」





すっかり日が落ちて辺りが暗くなり始めた夕方。
マフラーに顔を埋めるように帰路についた僕を呼び止めたのは、予想もしていなかった人物だった。

でもよく考えたら僕のことを一瞬で見つけて声を掛けてくれる人なんて、数限られていることに気づく。
彼を正面にして自然と表情が弛んだ。






「お疲れさん!」

「あ、はいお疲れさまです」

「おー。あと……はいっ」

「え?」





ぱすっと胸元に押し付けられた袋と高尾君の顔を交互に見つめる。
ニコニコと笑みを絶やさないまま、彼は口を開いた。





「たんじょーびおめでと」





今日、確かに何度か耳にした言葉が。彼の口から、その声で紡がれたことが信じられずぽかんとしてしまう。





「……え、あれ?まさか違った?!」

「……ぁ……いえ、高尾君が僕の誕生日を知っていたことに驚いてしまって」

「なんだよノーリアクションだったからびびったわー」

「あの」

「ん?」

「ありがとうございます」





じわじわ嬉しい気持ちと照れ臭さが込み上げてきて、渡されたシンプルなラッピング袋に視線を落とす。





「こっちこそ、ありがとな」

「え?」





柔らかい声色に思わず顔を上げれば僅かに頬を赤らめた彼の表情が目に止まった。
照れ臭そうに笑いながらも視線は僕に向けたままで。





「いや、なんつーか……ほら、あれ」

「……あれ、ですか?」

「あー……今からちょっとクサイことゆうけど笑うなよ!」





ああ。



それは難しいかもしれません。





「黒子。生まれてきてくれて、オレと出会ってくれてありがとな」





こんなにも喜びに心が震えているから。








(キミの一言で)
(僕は笑顔になれる)



(13/1/31)




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