知らぬが、という







よく視ているひとだと思う。
よく見えている人だと思う。








「黒子っちー」

「……何ですか、その黄瀬君のような呼び方」

「ぶはっ!眉間シワよってる」





休憩中に水道のところでぼんやりしていたら、高尾君に声を掛けられた。
こっそり移動してきたつもりだったのに、やっぱり彼は僕を見つけてくれる。

そしていつものことながら、彼は笑顔だ。

その笑顔に幾つもの種類があることを知ったのは、彼を無意識に目で追うようになってから。

試合中に見せる好戦的な笑み。純粋にプレイを楽しんでいる笑顔。普段から装備されている人当たりの好い笑い。友人に晒す無邪気な笑い顔。少し照れたときに浮かべる微笑み。たまにお腹を捩って爆笑。

そして「彼」にだけ向ける、穏やかな笑顔。
そこには決して他人が踏み込めない絶対的な信頼と絆がある。





「黒子?バテた??」

「いえ、大丈夫です」

「そか。よかった」

「高尾君」

「ん?」





僕にとって、彼は特別だ。
でも、彼にとって、僕は特別じゃない。

ただ、それだけ。





「いえ、なんでもありません」

「?……、んじゃ戻ろっか?」

「はい」





曖昧に笑えば、彼がそれ以上に踏み込んでこないのを知っている。

そうして、この微妙で心地好い距離感を僕が必死で守り続けているなんて、きっと君は知らない。








(どうか、そのまま)
(気づかずにいてください)



(13/1/29)



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[mokuji]

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