暗くて狭いハコのなか
「……黄瀬くん」
「高尾っち……なんか、その、ごめんなさい」
「いやオレは別にいーんだけどね?いま自主練の時間だし。逆にこれ大丈夫?」
さっきから小声で喋ってるのにはちゃんとワケがある。
それと。
こんな狭い用具入れで高尾っちと密着してるのにもちゃんと理由があって。だからその決して疚しい気持ちとかそりゃちょっとラッキーとか思ってないこともないっスけど、あ、ごめんなさいちゃんと説明するから。
といっても、理由は単純明解で。
自主練はじまってすぐにちょっとしたことで青峰っちを怒らせちゃって、逃げてる途中で高尾っちと遭遇。
追いつかれそうになって焦って近くにあった用具入れに飛び込んだ。なぜか咄嗟に高尾っちも引っ張って。
「とりあえず青峰っちの怒りが収まるまで……ここで一緒に隠れてて欲しいっス」
「ちなみにおさまる予定時刻は」
「わかんねーっス」
「黄瀬くーん」
がっくり項垂れた高尾っちの額が、ちょうどオレの肩口に当たって。改めて距離の近さを実感する。
あ。これやばいかも。
何か、汗の匂いとか。肌の熱とかが。暗い空間でも高尾っちの存在をありありとオレに知らしめてくる。
「青峰って動物的嗅覚優れてそうだよねー。見つかんないといいけど」
「いま、見つかったら色々な意味でやばい」
「ふはっ、大丈夫っしょ」
触れる肌越しに、笑う気配がした。
「もし見つかったら一緒に謝ったげる」
ああ。
オレ、ほんとにやばいかもしんない。
(伝わる鼓動。高まる熱)
(13/1/27)
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