緑間におあずけ
「え、は?ちょっ……?しんちゃんっ、ストップストップ!」
「何だ」
「いや「何だ」じゃないでしょ。ここ学校だし、しかもいま文化祭準備中ね」
「そんなことは分かっているが」
分かってたら、なんでこの距離感になった。
のし掛かるみたいにこっちに体重を掛けてくる真ちゃんに苦笑いで告げれば、真顔で返される。
さっきまでこの埃っぽい社会科準備室で、一緒にクラスメートに言われた戦国時代の資料とやらを探してたはずだった。
割りとマジメに。たまにいつもみたいなバカ話を挟みつつ。
なのに、急に名前を呼ばれたかと思えば身体を反転されて。
本棚に背中ぶつけたいってえなんなのと顔を上げたらいつも通りの仏頂面とご対面。
「ひ、ぁッ……ちょ、っだから!ちょっと待てって!触んの待った!」
いきなり近づいたと思ったら、耳を甘咬みされて反射的に声がでた。慌てて腕で押すけどどうやらエース様、離れる気はないらしい。
至近距離でじっとりとした視線を向けてくる。
「あのね、真ちゃん。とりあえず落ち着こう?そうだ冷静になれ緑間」
「オレは至って冷静なのだよ」
「いや冷静な人間がいきなりひとを学校で襲うかよ。そもそも何でいきなり?ドコでスイッチ入ったん??」
「いや、ふと二人きりだな、と思っただけだ。ダメだったのか」
悪びれた様子もなくさらりと言われたら二の句も告げない。
どうしたもんかと額に手を当ててたら、その手を取られ指にキスされた。
しかも、ねっとりした方の。
「しん、ちゃ……っ!」
振り払えない。けど、背中を這うぞわぞわした感覚に「ダメだ」と脳裏に危険信号が点滅する。
いくら好きとはいえTPOは考えねーとマズイ。
ぐ、と強く押し返せば、すげえ不服そうな顔で見下ろされる。
仕方なしにその高い位置にある頬にオレから一つ口付ければ、驚いた表情へと変わった。
「放課後までおあずけ、……なんてな」
軽い気持ちで言ったこの言葉を、思いっきり後悔することになるのは。
もう少し先の話。
(……もー、全身いたいんですけど)
(預けた分の利子だ)
(真ちゃんにおあずけとか二度としないわ)
(13/1/23)
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[mokuji]