緑間とカラオケ
「あー、喉やべー」
「調子に乗って歌いすぎだろう」
「だって歌うのってきもちくね?」
ドリンクを片手に笑う高尾。
さっきまでマイクを持ち、慣れた調子で歌っていた。クラスメートの合いの手に答つつ律儀に愛想を振り撒いて。
キサマはアイドルか。
「てか真ちゃんってちゃんと今時の曲とか知ってんのなー」
「……それなりにな」
「ちょっと意外だったわ。あ、でもさ……」
次の曲のイントロが流れ出し、高尾の声が遠くなる。
口を動かしているのは分かるのだが、言葉が聞き取れない。
そんなオレの様子に気づいたのか。高尾がグッと此方に顔を寄せた。
予想していなかった近距離に思わず退きそうになる身体を何とか押し留める。
「さっき歌ってたやつ」
「……?」
今歌っている人間への配慮もしつつ、視線をオレへと寄越す。
その顔は、先ほどの綺麗に貼られた愛想の表情とは全く異なる穏やかなもので。思わず持っていたグラスを滑らせそうになった。
「真ちゃんが歌ったバラード、切なくて泣きそうになったよ」
コイツはこうやって、一々オレの心臓を揺さぶる。
「今度はさー、二人で来ようぜ」
冗談のように笑ってみせる高尾だったが。
それを冗談にさせるつもりなどないからな。覚悟しておけ。
そう心の中で誓って、オレもヤツに倣ってクラスメートの歌に耳を傾けた。
(真ちゃん、次デュエットする?)
(オレはアイドルソングなど歌わないのだよ)
(13/1/17)
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