宮地サンのクラスメイト
同じクラスの宮地君と言えば、一見チャラそうだけど意外と硬派なドルオタだと認識している。
そんな彼の片想いに気がついたのはそれはもう偶々としか言いようがない。そしてひょんなことから宮地君の恋愛相談室のお相手に選抜されてしまった私なのだが。
時折クラスにやって来る一年生、高尾君。
彼が宮地君の恋の矢印が痛いほどに突き刺さっている相手である。
そんな高尾君について私が知っていること。
宮地君と同じバスケ部であること。
一年生でレギュラーであること。
相棒の緑くんと宮地君が超絶嫉妬心…本人は認めないけど…を抱くほどに仲良しであること。
バスケ部のなかでも小柄だけど、その明るいキャラクターで存在感はしっかりあってその憎めないところが宮地君的に可愛くて仕方ないこと。
と、本人とはまともに顔も合わせたことないのに結構詳しくなってしまった。
「あ、」
だから、購買近くの自販機前に佇む彼の姿を見つけて思わず立ち止まってしまったのも仕方ない。
困った様子でそれを見つめる彼は毒気のない感じで、確かに人好きの顔だなぁと思う。
声を掛けていいものか迷っていると、反対方向から見覚えのある蜂蜜色が見えて咄嗟に物陰に隠れる。
あれ?これじゃまるで覗きじゃないかと一瞬思ったけど、聞こえてきた会話に自然と意識が引き寄せられていく。
「高尾ォ、んなとこでなにボケッとつっ立ってんだ?公害だろうが」
「ちょっ、宮地サン、ヒドッ」
宮地君……。
いつも机に伏せながら「高尾まじ天使そこに存在してるだけで天使…」とかいってるくせに何なのその本人に対する失礼極まりない態度。
バカなの?もしくはツンデレのつもりなの?じゃあいつデレるの??
幸い高尾君は爆笑しながら宮地君に応対している。
なんと言う心の広さ。
いくら先輩とは言えムカつくなら言っていいんだよ、と心の中だけで溢した。
「いやー…ジュース買って行こうと思ったんすけど、お金足りなくて!」
「ああ?」
「さっき購買でビックカツサンド買っちゃったんですよ〜」
手に提げていた白い袋を目の高さまで持ち上げて見せた高尾君に宮地君は呆れたように溜め息をひとつ。
そのまま無言で高尾君の方へと歩み寄っていく。
どうするのかなと思っていたら、当たり前のように自販機にお金を投入し、当たり前のようにあるペットボトルのジュースのボタンを押した。
ごとん、とボトルの落下音がする。
「宮地サン……?」
「……」
屈んでジュースを取り出したかと思えば、やっぱり当たり前のようにそれを高尾君へと投げて寄越す。
慌てて受け取った彼は「お金……っあ、ないんだった、あ、宮地サン、これ」と動揺している。けど、私も同じくらい動揺している。
「それ、やる。オマエ好きなやつだろ?」
宮地君、やればできるじゃないか。
激しくイケメンオーラを放つだけ放って去って行った彼に開いた口が塞がらないでいたら、取り残された高尾君が、ペットボトルを両手でぎゅっと握り締めるのが見えた。
「……、宮地サン、ズルいだろ、あれは……」
頬を赤く染めて俯く彼に確信に近いものを感じた。
宮地君から今度相談を受けたら、言ってあげよう。
(告白したら?ぜったい、上手くいくから。って)
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