宮地サンが傍にいる
(※先輩卒業後)
「……、宮地サン」
「あ?」
「ちょっとうぜーこと言っても、いいすか」
背中に貼り付くようにしがみついてきた高尾に「なんだよ」と返したら、帰ってきたのは沈黙。
いつもいつも。何でコイツはギリギリになるまで自分を甘やかさねーのか。
「高尾、こっち向け」
半ばムリヤリこっちを向かせればなかなか見ることのない歪んだ表情。
なるべく、見たくない表情。
零れそうな涙を意地で食い止めてんのか、力入り過ぎな眉間をトンと指で小突いた。
「……っみ、ゃじさぁん……」
「あー、もう、泣くな」
「ま、だ、泣いてません……っ!」
「はいはい」
正面から抱え込んでやれば、確かにゆっくりと、嗚咽が聴こえ始める。
震える背中をやんわり撫でて、髪にキスを落とす。
もっと、上手く、甘えたらいいのに。
もっと上手く、甘やかせたらいいのに。
「……さびし、くて、……っセンパイたちが、いなくなって、……部活っ、がんばんねーと、って、思うんすけど…!オレの、パスのさきに、大坪さ…っとか、き、むらさんとかっ…………っ」
俯いていた顔がパッと上がって、涙に濡れた瞳が一直線にオレを捕らえる。
心を鷲掴みにされた気分だ。
「宮地、サンが、いない…のが……っ……」
ゆるゆる落ちていく視線はそのまま元の位置へ。
辛うじて聞き取れる声量で、高尾はもう一度「淋しい」と口にした。
ほんとうに、コイツは、変なとこ不器用で。
でもたぶん、オレもそんな器用には生きてなくて。
こんなときに掛けるべき巧い言葉なんかでてこない。
ただ、いっこだけ。
こうやって、琴線ぶっちぎれたときはいつでも受け止めてやるから。
千切れた線を編み直して、コイツがまた笑うまで。
ずっと、傍にいるからと。
それだけが、コイツに伝わればいい。
「……オレは、ここにいんだろ」
「……っ、ぇ、……?」
「オマエの、手の届くとこに、いる。……まぁ確かに、同じ秀徳のユニフォーム着て、同じコートに立つのはもう出来なくなっちまったけど……オマエとの繋がりは、切れたわけじゃねーだろ、高尾」
「……っ、」
冗談みたいに涙が雫になって瞳から零れ落ちていく。
それを拭って、オレは高尾にキスをした。
(愛してるの言葉に代えて、)
(14/5/3)
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