緑間が滾る







「あ、やべ」





高尾のそんな声が聞こえたかと思えば、すぐ後にガラスが割れる音が響いた。



クラスで調理実習をしていたときだ。

その時間に高尾がクラスメートの注目を集めることは珍しい話ではなく。何でもそつなくこなす男は料理の腕も然りということだったのだが。
今回に関しては周囲の視線に含まれていたのは“驚愕”の二文字だった。





「オマエがグラスを割るなど……具合でも悪いのか?」

「えぇぇ、そっちの心配?」

「高尾君?大丈夫?体調悪いなら無理しなくていいのよ!」

「ちょ、先生まで……!」





ケラケラと笑いながら「大丈夫ですよー、さっさと片付けちまうんでみんなは気にせず作業続けて?」と割れた欠片を拾い始める。

咄嗟に屈もうとしたオレに気づいた高尾が、突然真剣な表情で制止を促した。





「ダメ、真ちゃんはぜったい触んないで」

「は?意味が分からないのだよ……二人で片付けた方が早いだろう」

「ばっか、その手に傷でもついたらどーすんの!」

「……っ」

「もー真ちゃん変なトコで抜けてんだから……、ッ!」





大きめの欠片を拾い集めていた高尾が、不意に勢いよく手を引いた。
見れば、指先にポツリと、赤い球体が生まれて。





「高尾」

「ん?真ちゃんも作業という名のテーブル警備員に戻っていいんだぜ?ププ……」

「茶化すな。というかオレは盛り付けもしたのだよ」





だが何事もなかったかのように再び欠片を拾い出そうとする。
無意識にその手首を掴めば、やはり人差し指に切傷と僅かだが出血。ジトリと睨み付けるが高尾はへらりと笑う。





「適当にしてりゃいつか止まるでしょー」

「バカめ、傷を甘くみるな。早く消毒を……」

「ハイハイ。……ん、……」

「……は?」





ちゅ、と艶かしいリップ音が聴覚を襲う。
視線は自らの指を舐める高尾に貼り付いたまま動かない。



それは僅かの時間だったのかもしれないが。
高尾がペロリと舌舐めずりをし終えクラスの女子に「絆創膏持ってねー?」と聞く頃には、オレの全身の血は沸騰しているのかと思うくらい熱くたぎっていた。





「コレで大丈夫っと!……真ちゃん?どーした?」

「……ッ何でもない!……、警備を続ける」

「まじか。盛り付けは??」





いつも通りふざけた調子の高尾を決して視界に入れないよう。
その後、オレは他所のテーブルからの侵入者に意識を集中させた。



その姿に見入っていたなど。
絶対に有り得ないのだよ。








(調理実習?高尾はともかく緑間に料理とかできんの?)
(いや、宮地サン。緑間はテーブル警備員なんで……ぶはっ)
(黙れ高尾。だから盛り付けも……!)



(13/1/10)




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