黄瀬君と缶コーヒー(微糖)
「はい、黒子っち」
「……どうも」
「え、なんスかそのビミョーな表情」
きらりと光る黄色はいつも眩しくボクの視界を侵す。
ただそれは決して不快ではなく、むしろ、好意的にすら思える感情を引き出しにかかるから厄介だ。
受け取ったスチールの缶を握り締めていると、隣に座った黄瀬君が笑みを零したのが揺らいだ空気でわかった。
「何ですか?」
「え?」
「……何一人で笑ってるんですか、気持ち悪いです」
「ヒドッ!ちょ、こんなイケメンをつかまえて気持ち悪いとか!」
「黄瀬君……気持ち悪いです」
「わざわざ言い直さないで?!」
不思議と穏やかな空気に包まれていくのは、彼だからこそなのか。
彼と、ボクだからこそなのか。
中学の頃から変わったような、変わらないような。この距離感。
少なからず居心地が良いと思っていることを、ボクはもう認めざるを得ないのだろう。
不意に伸ばされた黄瀬君の指先が、前髪を掠める。
「黒子っち」
「……っ」
「花びら、付いてるよ」
まるで切り抜かれた映画のワンシーンのように。
なんて我ながら安っぽい表現だとは思ったけれど、桜を背にして微笑う彼はとても綺麗で無意識に心が震えた。
「……黄瀬君は、本当に、ムカつきます」
「えええ?何スかいきなり」
「さっきみたいなのは、女の子にやってください」
「……黒子っち、」
心に燻っているこの感情の名前なんて、とっくに自覚はしている。
だけど。
「……好きな子にやるのは、別カウントにしてほしいっス」
困ったように、照れたように笑うキミの表情が。
ボクに片恋していると思っている、キミの心が。
とても愛しく思うから。
意地悪なのは分かっていて。
もう少しだけ、言葉にするのはやめておこうと思うんです。
(なんて意気地無しの恋心を、笑って)
(14/3/31)
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[mokuji]