高尾君→高尾ちゃん




いつもと違うことなんて、何もなかったはずだ。ただ、いつも通りに部室のドアを開けたら。





「……!!ばっ、いつもノックしろっつってんだろ高尾ォッ!つうか早く閉めろ!!」





顔を真っ赤にした上半身裸の宮地サンに部室から追い出された。着替え中だったんだろうけど追い出すのはひどくないすか?ていうかこれじゃオレ着替えられないじゃん。あれそもそも何で追い出されたの?あとノックしろとか言われたの初めてです宮地サン。
半ば呆然と部室のドア前に立ち尽くしてたら、不意に後ろから肩に手を置かれる。
振り返ると見慣れた緑色。





「高尾、そこに立たれると中に入れないのだよ」

「あ、もう先生からの用事終わったの?」





真ちゃん。と言い掛けて。
違和感が二つ。





「……?真ちゃん、さっき見たときよりデカくなってない?え、急激に身長伸びた??」

「そんな短時間で急に身長が伸びるわけないだろう」

「いやまぁそりゃそうだろうけど……」





けど、見上げる目線がいつもより高い気がするんだよね。
あとオレの、声も、何か高い気がするんだよね。

じわじわと拡がる違和感。
少し締め付けられるような胸の圧迫感と何処と無く解放感のある足元。と、





そこまで考えて。



オレは気づいてはいけないことに気づいてしまった。








ない。





あるべき処にある筈のあって然るべきものが、ない。





「……え、ぁ、うそ、……っ」

「?どこか、調子でも悪いのか高尾」

「し、真ちゃん……ッ」





咄嗟に目の前の相棒の腕を掴めば過剰な程に肩を跳ねさせたけど、正直こっちはそれどころじゃなかった。








「どうしよう真ちゃん!!オレのムスコがミスディレしてんだけど!!!!」

「ぶっ!!!」








真ちゃんの顔が一気に紅く染まったけどごめんってだからそれどころじゃないんだって、まじどうしようどうなってんのコレ。
そもそも何でオレ、女子の制服着てんの。解放感どころか危機感すら湧くんだけどなにこれ。
いや女装癖とかないからね?!





「高尾……ッオマエにムスコなど元々存在しないのだよ!!というかその言葉遣いは何だ、直したんじゃなかったのか?!」

「元々いないわけないっしょ!ちゃんと16年間共に育ってきたからね?!!つーか一緒に風呂入ったとき見たでしょ真ちゃん!あと言葉遣いって何の話?!」

「なっ、なに、を、言って……!いつオマエと風呂に入ったのだよ!!!!!」





「いや部室前で何の話してんだよオマエら」





「宮地サン!」





後ろのドアが開いたと思ったら、明るい金髪が視界に飛び込む。すっかり練習着姿な宮地サンに向き直ると頭をくしゃりと撫でられた。背筋が、ぞわりとする。
や、あの、イヤとかじゃなくて。オレの頭に触れるその手があまりにも、普段じゃ考えられないくらいに優しいから。
あとやっぱ宮地サンもなんかデカくなってるし。
膨張していくばかりの違和感を抱えたまま宮地サンを見上げたら、信じられないくらい穏やかな視線とぶつかった。





「あー…み、宮地サン……?」

「高尾、オマエはもうちょい女らしくできねーのか」

「……………………」





……………………。








…………女らしく?





一度、視線を自分の体へと向ける。
見覚えのない胸元の膨らみと、やはり明らかに存在感のなくなった股間。太股の位置で揺れるスカート。柔らかみを帯びた体。



ここまで確認して、オレはまた、宮地サンを見上げた。





「……女って、オレのこと、です、か?」

「オマエ以外にいねえだろ、あとオレってなんだよ」

「高尾、オマエは日頃からもっと慎みをもつべきなのだよ」

「……」





え?





あれ?オレ、いつから、女子になった??
ていうか、なんで宮地サンも真ちゃんも当たり前のように受け入れてるの。むしろまるで、本当に、最初から、オレが女のコだったみたいに扱っちゃったりして。おかしいって。





「その……オマエは折角可愛い顔をしているのだから、立ち振舞いも正した方がより魅力的、だと……」





は?真ちゃん、なに言っちゃってんの?
そうつっこむより先にオレと真ちゃんの間にズズイと踏み込んできた宮地サンが口を開く。オレからはパッと見背中しか見えないけど、鷹の目の能力故に宮地サンが恐ろしく黒い笑みを浮かべているのが丸見えだ。怖いんですけど。なんでキレてんですか宮地サン。





「オイ、緑間。なに然り気無くマネージャー口説いてんだ轢くぞコラ」

「口説いてなどいません」

「今、顔が可愛いとか言ってただろうが」

「……っ、オレは事実を口にしたまでなのだよ」

「チッ、開き直りやがった……。つうか高尾はいつまでもボーッとしてないで早く着替えに行ったらどうだ」

「あっ、はい」

「「待て高尾」」





睨み合う二人をワケわからないままに見守ってたら急に話を振られて、咄嗟に部室のドアに手を掛けたらまた引き留められてしまう。





「だからそこは男子更衣室だっつの!」

「オマエはマネージャー用の更衣室あるだろう!」

「…………マネージャーって、もしかしなくても……やっぱりオレのことですかね?」





「「当たり前だ(なのだよ)」」





今度こそ、自分の頬がひきつるのが分かった。





全くもって意味のわからないことに。





オレは何故か、女子になってしまったらしい。








(とりあえず意外と巨乳で戸惑ってます)








こっから高尾ちゃん(♀)を巡る宮地サンと緑間サンの仁義なき戦い(笑)が繰り広げられたらいい。
自分は♂のつもりで無意識に二人を振り回す高尾ちゃん(体のみ♀)ください←






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