黄瀬くんと運命と偶然の某17








しまった。

高尾っちがいない。





ショッピングモールに来たのはよかったけど途中で女のコ達に囲まれちゃって、高尾っちとはぐれるとかマジ最悪っス。
いつから?
最初は笑って近くにいたはずなのに。

辺りを見回しても見つからない。

嫌な汗が背中を流れる。



どうしよう。



まさかあまりの可愛さに誘拐とか。いやいや落ち着け高尾っちオレと同い年だから大丈夫だから。
そうなってくると次に心配なのはナンパだ。クソみたいなヤロウから声掛けられて連れて行かれちゃったとか。いやいや待て待て大丈夫そんな高尾っちが素直についてくわけねーし。近くでもめてたら声で分かるだろ。



じゃあ何でいない?



自分の意思で、離れた?





「……っ、」





その意味するところを察して咄嗟に走り出す。ほんとなら大声で名前を呼びたい。



高尾っち。

どこ。



どこいったんスか。








「高尾っち……っ」








「涼ちゃん!」








く、と腕を引かれて急に足を止められる。

反転した体に慌てて体勢を整えたら、すぐ目の前に見慣れた笑顔が映り込んだ。





「え、あっ、た…高尾っち……?」

「や、いまちょうど戻ろうとしたらいきなり走り出すから、びっくりしたわー」

「ど、どっか行ってたんスか?」

「あー……うん。涼ちゃん、女の子に囲まれちゃってたから、」





苦笑いの向こうに何か察するものがあって、オレは咄嗟に高尾っちの手を引いていた。
びっくりしてたのは分かった。
でもね、何でだろ、あんたの顔見るといつも抑えが効かなくなる。
正面から抱きしめたら慌てたように肩を押されたけど離してやれないっスよ、今は。





「ちょ、涼ちゃんっ、ここ、そとだって……」

「ごめん……ひとりにして、ごめん」

「えっ、あ、うん大丈夫……じゃなかったからちょっと逃げちゃったんだよ、ね」

「……っ」

「わかってるつもりだったんだけどねー、涼ちゃんが人気者だって」





はじめて聞く、本音に。





「何かね、オレ」





心臓が揺さぶられる。





「自分で思ってたより、涼ちゃんのこと、好きになっちゃってるみたいだわ……っ、……だからさ」








ぎゅっと回された両腕に全身の血が沸騰したような感覚に襲われる。



なにそれ。なんスかそれ。





小さく小さく零された言葉はオレの理性を一時的にログアウトさせるには十分過ぎた。








(ひとりにしないでよ)








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