テツの温度











ふとした瞬間に、視線を走らせる。



見つからない。



当たり前のように。
日陰にとける影のように。



オレは、見失った。















「テツ……っ!」

「っ、わ、……びっくりしました……どうしたんですか、いきなり……?」





掴んだ手首の感触にホッと息をついたら、驚きと戸惑いをない交ぜにしたような視線が降りてきた。
手のひらから伝う生ぬるい体温に、さっきまでの不快感がまたじわじわと蘇ってくる。





「あー…いや、何でもねえわ」





ボソリと呟けばそれを拾ったテツは相変わらず眉ひとつ動かさずにオレの手に自分のを重ねた。やっぱり、生温い。
何も言ってこないのをイイコトに指を絡めてみる。と、そこではじめて反応があった。
逃げるように手を退こうとするから反射的に逃がすまいと掴む。





「……、なに人の手で遊んでるんですかキミは……」





トーンが少しだけ下がったから機嫌損ねたのかと顔色を窺えば、その水色の瞳は戸惑うように揺れていた。



なんで、そんな顔。





そう尋ねようと口を開く前に、するりと生温い温度はオレの手から零れていった。





「……青峰君」

「ん?」





そしてその視線さえも、いつの間にか。








「……いえ、何でもありません」





「そうかよ」








オレは、見失った。








(足りない言葉がぜんぶ体温から伝わればいいなんて、ただの怠惰だと気づかずに)





(2014/1/8)


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