青峰君と星の話


(※帝光時代)










「……あ」

「ん?どーかしたか、テツ」





ともすれば空気に紛れて消えてしまいそうな呟きすらキミはさらりと掬い上げてくれた。
部活の帰り道、暗がりに燦然と光を放つ双眸はいつだってボクの視界に一瞬で入り込む。

そっと天を指し示せば、青峰君の視線は緩やかにボクから空へ移っていった。僅かな寂しさを胸に抱き懐きながらも静かに唇を動かす。





「スピカです」

「はっ?」

「あの星」

「……ああ、星の名前」

「理科の授業で習いましたよね」

「あー、アレな。スピカってアレ、あのなんちゃらの……アレだろ」

「青峰君、分からないなら分からないって言っても怒りませんよ」





空中に視線を逃したまま曖昧な返答をする青峰君をジットリ見上げれば、バツが悪そうに「星の名前なんてよく覚えてるな」と苦笑した。





「ボクもひとつひとつ覚えてるわけじゃありません。ただ……」





言い掛けた言葉が、息となって宙に溶ける。






ボクはいま、何を言おうとした?





自分の頭を過った言葉に意図せず顔に熱が集まる。





「ただ?」







そんな様子に気づきもしない彼にふと沸いた悪戯心が。ボクの口を勝手に動かしていた。





「青く強く光る恒星……まるでキミみたいだなと思って、覚えていました」

「……っ、はぁッ?」





寸頓狂な声を上げてこちらを振り向く姿に僅かばかりの優越感。





「見えませんか?あの、青く光っている星」

「…………、や、見えるけどオマエ……テツ、オマエ……」





言い淀む青峰君に微かな笑みを溢していると、何かに気づいたように彼がまたボクを振り向いた。
目映いくらいの笑顔が、目の前で開く。





「アレさ、どっちかっつうとテツみたいじゃねぇか?明るい青だしよ」

「ボクは影ですから、あんなに光ってませんよ」

「じゃあ夜空がオレで、テツは星ってのは?」

「…………は?」





青峰君、別にボクは色の話をしてるんじゃないですけど……と言おうとした言葉は、彼の声に遮られる。





「星は夜しか光らねーし、でも星が光ってねえ夜なんざだだ暗いだけじゃねえか。……ほら、オレらも似たようなもんだろ?」

「……ッ」





全然、



全然違いますよ。

きっとキミは、ボクがいなくても光輝くことが出来る。
だけどボクは。





見上げた先。夜空のように深い青の瞳から感じるのは、暖かな信頼。





「あと何かおぼつかねーとこもテツ、星っぽいし」

「……、何ですか、おぼつかないって」

「あー、そりゃ…あの……アレだよ」

「どれですか」





沸き立つ自分の感情を隠すために青峰君をせっつけば、視線を一巡さ迷わせた後、急に手を強く引かれた。





「……え、ちょ…、あの……?」

「あーもう!いいからもう帰っぞ!」





繋がった手はそのままに。歩き出した彼に引き摺られる形になり慌てて歩みを進める。



頭が混乱する中で。

重なった掌の熱だけが、鮮明に感じられた。








(どうか、星のように消えてしまわないでと)




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