赤司におめでとう
『こんばんわー!高尾くんですよーっと』
底抜けに明るい声。というのだろうか、携帯越しに響くその声は僕の聴覚に違和感なく入り込んでいく。
『部活でお疲れの赤司クンに嬉しいお知らせがひとつ』
姿が見えなくても浮かぶ笑顔に自然と心が浮き足立つ不思議な感覚。
遠くにいる彼に会いたいと思う衝動。
どちらも、和成に出会う迄知らなかったものだ。
『今日は赤司にとって特別な一日です。なので、きっと特別なできごとが起こるでしょう』
まるで悪戯っ子のような笑いを最後に、留守番の再生はそこで途切れた。
予想外のそれに僅かばかりの驚きと、焦燥。
「……まさか和成から祝いの言葉を言ってもらえないとはな……」
もしかすると直接言ってもらえるのではと着信を待つが携帯は今日の仕事は終えたと言わんばかりにもう動く気配を見せない。
過剰な期待、か。
和成なら。と。
こうなってくると僕達を隔てる距離が果てしなくもどかしく感じられた。
「会いたい……声を、聴きたい」
声に出してみると、それは更に現実味を帯びる。
僕が誰がを求める日がこようとはね。
それでも、こんな僕を彼は笑わないだろう。
気を紛らせようと部屋を出ようとしたとき今まで微動だにしなかった携帯が振動し、ガラにもなく慌ててディスプレイを見やった。あと直ぐにため息をつく。
そこに表示されているのはよく知る部員の名前で。
ガッカリしている自分に呆れながらも連絡事項かもしれないとメールを確認する。
『征ちゃん、外そと!』
「……は?」
意味の分からない玲央からのメールに戸惑いながらも、家人に悟られないよう裏口からそっと外に回ったのは、きっとまだ残っている僅かな期待から。
特別なできごとが起こるでしょう。
そう、彼が笑ったから。
気がつけば足早に。
門扉の前に続く角を曲がる。
その先に、会いたくて堪らなかった笑顔が待っていた。
「……っ赤司!誕生日おめでとぶふぁっ」
愛しい姿を見て理性もかなぐり捨てるように抱き締めてしまったのは、今日は特別な日だから、許してほしい。
(会いに来ちゃった!と笑う彼が、何よりの、特別)
(13/12/20)
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