緑間と放課後
「真ちゃんてさー」
くる、と手の中でシャーペンを一回りさせた高尾の視線は赤く染まり始めた校庭の方に向けられている。
オレの方を見てはいないようだが、その視界が捕らえているものはヤツにしか分からない。
「真ちゃんは、来るもの拒んで去るもの去れると思うなよ、なタイプだよな」
「?どういう意味だ」
「オマエさ、とりあえず緑間バリアー張るじゃん、最初。まぁその前にラッキーアイテムから醸し出されるオーラでみんな敬遠しがちだけど」
「言っている意味が分からん。ちゃんと日本語を喋るのだよ高尾」
「や、日本語しか喋ってねーよ……ん?バリアーとかって英語か??」
やっと此方を向いたと思えば意味の分からないことを言い出す。コイツの突拍子の無さにはいつまで経っても慣れなかった。
けらけらと何が面白いのか良く笑う。
しかし周りを気配ることに関しては決して疎かにしないその姿勢は、一年の付き合いでそれなりに理解し認めているつもりだ。
高尾は、ほんとうに感心する程よく視ている。
「……それで、結局何の話だ?」
「んー?……いやさ、真ちゃんは一度フィールドに入れた人に対してはすごく優しいから。きっと、緑間バリアーを掻い潜ってなかに入った人は去る気なんて失くなっちゃうんだよ、って話」
「は……?」
「でも真ちゃんが必死で誰かを追いかける姿も見てみたいなー、とか思って」
不思議と、今度は高尾の言葉がすとんと心に落ちてきた。
優しい、と。
コイツはオレを優しいという。
そんなことを言うのはオマエだけだと、それを伝えたところでまた笑うだけだろうが、不意に言葉にしてみたいと思った。
夕日に照らされた横顔を見つめながら、そっと唇を開く。
「オマエなら」
「ん?」
高尾の手から落ちたシャーペンが、机にことりと転がり音を立てた。
「オマエが離れて行くというなら、オレは必死になって追いかけるかもしれないな」
切れ長の目がハッと見開かれたあと、驚く程に優しく、高尾は笑った。
「じゃあ、必死に追いかける真ちゃんの姿は、この先ずっと見れないね」
その言葉はひとつの誓いのように、柔らかくオレに絡み付く。
(変わらない距離に、きっと)
(13/12/03)
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