夜の帳と逆さまの月5








「真ちゃん、もうすぐ高三だね」

「ああ」

「来年も同じクラスになれるといいね」

「そうだな」





すらすらと動く綺麗な指を見つめていたら、不意に真ちゃんが顔を上げた。





「和成、さっきから手が進んでいないのだよ」

「んー、もう課題のぶん終わったから。ていうか真ちゃん何の教科やってんの?」

「……、外国語だ」

「……えっ、それドイツ語?……え、え?なんで?学年上がっても、そんなんやんないよね?!」





ふと目についた資料を手に取れば、見慣れない文字の羅列。
驚いて真ちゃんを見たら、少しだけ考えるような顔をして眼鏡のブリッジを押し上げたあと、またオレの方へと向き直った。





「オレは卒業したら、留学する」





淡々と紡がれた言葉に。



オレは頭が真っ白になる。








「……へ?りゅう、がく……?」








バカみたいに震えた声がでて、持ってたペンがするりと手から落ちていった。



かつん、と。
テーブルにぶつかるその音が、やけに耳につく。

表情を取り繕う間もなく、真ちゃんがオレの手首を掴んだ。





「和成。オレは、来年の今頃には、ここからいなくなる」

「ははっ、冗談、でしょ…っ?しん、ちゃんが……いなくなるとか」





オレの隣から、消えるなんて。



そんなの、嘘だ。





そんなの、ぜったいに、ウソだよな?





すがるような目を向けたけど、真ちゃんの瞳は塵ほどにも揺るがなかった。





「……っ、オレ、今日は帰る……!」





捕まれた手を振りほどいて、オレは逃げるようにその部屋を後にしたけど。



真ちゃんは呼び止めなかったし。
追いかけても、くれなかった。









[ 168/284 ]

[mokuji]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -