黄瀬くんの嫉妬心








「なんで二人きりだったんスか」





イケメンが怒ると、怖い。

両肩をがっちり掴まれて壁に押し付けられたら逃げ場なんてないから、オレは嫌でも目の前の綺麗な黄色の瞳を見つめなきゃいけなかった。
少しでも目を反らそうもんなら後が大変になる。のは経験済みだ。





「高尾っち。皆で、遊びに、行くって言ってたよね?」

「え、っと、」

「言ったよね?」

「ハイイイマシタ」





敬語がなくなってるよ黄瀬くん…とは怖いから口には出さないけどどっちみち真顔怖い。
ぐっと顔の横へと唇を寄せられて、強い視線から解放される。
ホッと息をついたのは一瞬で。





「ね。何で、オレの知らない奴と二人きりだったんスか?ねぇ、高尾っち……」

「……ッ、き、せく……!」





耳元で甘く深く囁かれて背筋が震える。
いつもみたいな明るい声じゃなくて、黄瀬くんそんな声出るんだってくらい、低い低い声。
擽ったさに身を捩ったら逃がさないと言わんばかりに両手で頭を固定された。
ちょっと、痛い。





「黄瀬くん、あれは、ほら、ただのクラスメートっつうかその前に男だから!なにも過ちは起こんないから、ねっ?」





努めて明るく言ったところで、この良く分からないスイッチが入った黄瀬くんを説得出来るとは思ってないんだけどさ。なんというか、その、反射というか。
それが更に黄瀬くんの機嫌を悪化させることになるなんて、思わないワケで。





「高尾っちは分かってないっスよ。オレも男でしょ?」

「あーうん、まぁ、それは……、その、ごめん」

「もう、ほんと。閉じ込めちゃいたくなるっス」

「……、黄瀬くん」





何がそこまで彼を不安にさせるのだろうか。って時々考える。答えは出ないんだけどね。
信頼されてないとかそういうのじゃなくて、漠然とした不安を、黄瀬くんはまっすぐにオレにぶつけてくるから。

そっと胸に手を置いたら、何も言わず少しだけ距離をとってくれた。





「黄瀬くんだけだよ」

「え……?」

「こうやって、近づいて、触れて、キスしたりすんの」

「高尾っち」





ずっと一緒にはいられないから、きっとこの先も黄瀬くんの不安はゼロにはならないと思う。
クラスメートと二人きりとか特に何も起こんないのは分かってても、だ。
でもオレは、黄瀬くんが安心していられるようにしないと。

だから。





「……ン、」





そっとその薄い唇に自分のそれを重ねて。



少しでもオレの気持ちがそこから伝わればいいと思った。








(ベクトルはちゃんと向き合ってるんだよ、って)





(13/10/9)




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