黄瀬くんと運命と偶然の某7









高尾、高尾くん。

たかお、かずなり。

高尾、っち。








「……高尾っち」

「へ?」

「あ」





頭のなかで考えていた高尾の呼び方を、無意識に音にしていた自分自身に大いに戸惑う。
でも視線を上げた彼は何てことないと言わんばかりに笑った。





「黄瀬くんのその「〜っち」って可愛いよな。緑間とかキセキの奴らはそれで呼んでるっしょ?……いいなぁって思ってたんだよね」

「え、え?」

「よかったらそう呼んでよ!あ、あともし嫌じゃなかったら、なんだけど」





笑顔のまま、高尾、っち、が続けた。





「黄瀬くんのことも、下の名前で呼んでいい?」





こて、と小首を傾げるもんだから。心臓がどくんと大きな音を立てた。

危うくポテトを取り落としそうになる。
けどそこはどうにか平静を装って笑い返した。





「もちろん、いいっスよ!」

「やった!」





高尾っちの考えが、読めない。

名前呼びとか明らかに親しくなろうとしてるじゃんそれ。
でもフツー自分にキスしたような男と仲良くなりたいと思うっスか?いや思わないだろ。




そんな、無邪気な笑顔を向けられたら、期待する。





そこまで考えてから、オレの思考は停止した。








(期待する。って、なに、を)








「涼ちゃん?」








名前を呼ばれて。
カッと、顔面が熱くなる。



恥ずかしい、とか、あり得ない、とか。
嘘だろ。なんで、とか。

色んな感情がごっちゃになって。

オレは空気の抜けた風船みたいにへたりとテーブルに突っ伏した。

たぶん、高尾っちは不思議そうにこっちを見つめているに違いない。





けど、いきなり自覚した想いを反芻させて高尾っちに向き合うには、ちょっとまだ、時間がかかりそうだった。








(さて、そろそろ、みとめようか)





(13/9/18)





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