紫原と遭遇する
「ねえ、ここどこ?」
「はっ?て、おま……キセキの……!」
「??」
駅前をちょうど通りかかったとき、後ろから間延びした声に呼び止められた。
振り返った先に人の顔なんてなくて。むしろ胸元しか見えないくらい近くにソイツは居た。
慌てて一歩下がったらやっと顔が見える。……かなり見上げて、だけど。
「紫原?なんでこんなトコに……つーかデカッ!」
「えーなんでオレのこと知って……あ、緑ちんとこの10番のひとだ」
「えっ」
あのスティックつきの飴を舐めながらこっちを見下ろしてくる紫原は、身長的には威圧感ハンパねぇのに。なんとなく見てて気が抜ける。
てかオレのこと知ってるとか奇跡じゃね?
驚いてポカンとしてたら、紫原はふにゃりと笑った。
「オレ、誠凛に行ってる途中で室ちん達とはぐれちゃったんだよねー。だから連れてってくんない?」
「はあ?!」
「てか名前なんていうの?」
「え、オレ?オレは高尾、だけど」
「じゃあ高ちんよろしくー」
「あ、お……おぉぉ?」
いや「よろしくー」じゃねぇよ。
あっぶねうっかり頷くとこだったわ今。
こっちが現状理解に努めようとしてんのに、紫原は知ったこっちゃないと言わんばかりにオレの腕を掴む。
「ちょ、待って!とりあえずそのえっとダレ?室ちんサン?そのひとに連絡取ったら??」
「ケータイよく無くすから室ちんがもってる」
「ケータイを携帯する意味!!」
勿論、番号とか覚えてねーんだろうし。オレは陽泉に知り合いとかいねーし。
「ねえ、高ちーん、お願いー」
「……」
もうコレは覚悟を決めるしかないらしい。
「あーもう分かった着いてこい!」
「!ありがと高ちんやっさしー!」
「どうでもいいけど……“高ちん”やめね?」
「えーなんで?」
「……」
コイツ、緑間を凌ぐマイペースさだわ……こりゃお守りは大変だろーな……。
心の中でまだ見ぬ室ちんサンなる人に思いを馳せつつ。オレは自分より30センチはデカい迷子を案内するために誠凛へと向かうのだった。
(高ちんちっせー。赤ちんと同じくらい?)
(は?誰だよ赤ちんて……つか頭撫でんなっつの!)
((何か可愛い生き物が一緒に歩いて来る……))
(あ、室ちんだ)
(13/1/8)
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