宮地サンの存在







ふとした瞬間に。

崩れちまいそうな奴だな、と思うことがある。








「真ちゃーん、今日は夜から土砂降りっつってたし、もう帰ろうぜ〜」

「バカを言うな高尾、雨への対策は完璧なのだよ。よって自主練は続行する」





今日も緑間と自主練してる高尾。
その横顔はいつも通りに見えるけど、何処と無く血色が悪いように思えた。

無遠慮に近づいて二の腕を掴んだら「どうしたんすか、宮地サン」と笑う。視えてたのかよ。





「オマエどっか悪いんじゃねえの?」

「えー、いつも通りの高尾くんですよ?」

「嘘つけ。ほら、頭とか」

「ブフォ!ちょ、確かに宮地サンよりかは頭だいぶ悪いかもですけど……!」





あ。今のは語弊があったか。

けど爆笑するとこじゃねえだろ。

そう心のなかだけでぼやいてからその露出されたデコに手を当てようとしたら、高尾の肩がびくりと跳ねた。
そのままオレの手から逃げるみたいに距離をとる。





「高尾」

「はい?」

「はい、じゃねーよ。逃げんな轢くぞこら」

「……、宮地サン」





少しだけ。オレにだけ分かるくらいに、高尾が眉を寄せた。
困っています、と表情が告げている。その意識が緑間に向けられていることくらい、容易に想像がついた。
それと同時に、こっちのやり取りに気づいたらしい緑間が高尾を見たのが分かった。

ため息をついて、高尾の手を引く。





「え、み、宮地サン…っ?」

「緑間ー、ちょっとコイツ借りてくぞ」

「は?」

「ええっ、ちょっと、ま……っ」

「いいから来い」





オレは呼び止められる前に、高尾を体育館から連れ出した。










人目のつかない校舎側の方まで来てそっと高尾の頭を抱き寄せる。特に何の抵抗もなくオレの胸へと収まった高尾に、ほんと、ちっせえな。とぼんやり思う。
頭をポンポンと軽く叩いたら、背中に腕が回った。
オレのTシャツを高尾の手がぎゅっと掴む。





「いつも何でギリギリまで踏ん張ってんだよ、オマエは」

「す、みませ……」

「バカ、謝んな」





もう一度頭を撫でれば、小さな声で「はい」と返事があった。





こうして高尾を抱き締めるのは、初めてじゃない。

コイツはいつも器用に何でもこなしてるように見えるし多分コイツ自身も自覚があると思う。

けど、ある日。ほんとに偶々。オレはその綻びに気がついた。
無視だって出来たはずだ。
きっとあのとき気づかないフリをしていても、高尾は上手く繕ったんだろう。
そして何事も無かったかのように、次の日には笑ったんだろう。

でも、あのときオレは。





「高尾、」





その手首を無意識に掴んでいた。








「宮地サンには……何でオレが弱ってるとき、バレちゃうんすかね……オレ、上手に隠してると思うんだけどなぁ……」





落ち着いたらしい高尾が不思議そうに呟いたから。
オレは鼻で笑ってから、くしゃりとその頭を撫でてやった。





「知らねーよ」





ただ、高尾にとってオレが、心の隙であればいいと。

あのときから思い続けている。










(寄り添うひと)





(13/9/7)




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[mokuji]

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