夜の帳と逆さまの月4
「いっただっきまーす!」
「ふふ、和くんはいっつも美味しそうに食べてくれるから作り甲斐があるわ」
「だってママさんのご飯ほんと美味しいもん!」
緩やかに下ろした髪を触りながら照れるママさんは二児の母とは思えない若さだ。
「嬉しいわ。真太郎はなかなか口に出して褒めたりしてくれないから」
「母さ……」
「仕方ないわ、お母さん、お兄ちゃんツンデレだもの」
「ぶっ、ちょ、真子ちゃん…っご飯食べてるときにそゆこと言うのヤメテ!」
「真子ォ!オレはツンデレではないのだよ!」
「やだお兄ちゃん、自覚ないの?」
「ブファ!」
ママさんの隣に座る真ちゃんそっくりの妹チャンが当たり前のようにツンデレとか口にするもんだから、お茶を噴きそうになった。あっぶね。
真ちゃんのとこは、いつも明るい食卓だ。こうやってたまにお邪魔して、ご飯をご馳走になる。
そのあとは真ちゃんの部屋でいつもの勉強会。
そう、いつもの。
意識しないようにしているけれど、実は今日の放課後、真ちゃんに誘われたときからオレの心臓はあり得ないほどのハイスピードを刻んでいた。
こないだの、あの夜も。いつもの勉強会の日で。
放課後真ちゃんに「今日家に来るのだよ」って誘われて、こんな風にご飯をご馳走になって、いつも通りの一日だったんだ。
途中で寝てしまったオレが、真ちゃんのベッドで夜中に目を覚ますまでは。
「?和くん、どうかした?何か食べれないものがあったら真太郎のお皿に入れちゃっていいのよ??」
「あっ、いや、ぜんぶ好きです!」
「和くん好き嫌いないよね、お兄ちゃんも見習わないと」
「真子、オマエもだろう」
平常心、平常心。
そう自分に言い聞かせて。
オレはクリームコロッケの最後の一欠片を口に放り込んだ。
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