夜の帳と逆さまの月3
真ちゃんは医者になるらしい。
隣の席の進路調査表をチラリと覗き込んだら『医者』と書かれていた。
思わず「ブフォ!まさかの職業名…っ!」って噴き出して怒られたのはついさっきのHRでの話だ。
「オマエのせいでオレまで怒られただろう」
「ププ…っだって真ちゃん、進路調査表って、大学とかの名前書くもんで、将来の夢とかじゃないんだから…っ」
真ちゃん、昔から頭良いくせにどっか抜けてるよね。そう笑えば、真ちゃんは真顔のままこちらを睨む。
「大学は今調べているところなのだよ」
「え、でも医学部がある大学って言ったら結構絞られてくるでしょ?」
「……、そうだな」
「でもそっかー、真ちゃん医学部かー……オレ、どうしようかなあ……」
教室のなかを見渡せばもうクラスメートたちも疎らで、なんとなく閑散としている。
そういえば真ちゃんが学年三位以下に落ちたとこ見たことないな、とかぼんやり思う。
高校2年とか言ったらまだ中弛みしてても良さそうな時期なのに。隣にいる幼なじみはちゃんと将来に向けて準備をしているのか。
なんか、すごい、置いてかれてる気分だ。
そっと真ちゃんの方を見たら、しっかり目が合った。
「またバカなことを考えていただろう、高尾」
「へっ?」
何もかも見透かしたようなその目。
零れた間抜けな声に、真ちゃんが呆れたように笑った。
「オレは、オマエを置いていったりは、しないのだよ」
その言葉が嘘偽りのないものだと知るのは、まださきの事。
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