夜の帳と逆さまの月2
「高尾、行くぞ」
玄関先に立つその姿はいつもピシッとしていて見ているこっちが背筋が伸びそう。
「お待たせーごめんね」って笑えば少し呆れた視線が返ってきたあと、でもわずかに優しく笑って踵を返す真ちゃん。
そのおっきな背中を追いかける。
いつも通りの朝の光景だ。
ほら、やっぱり。アレだわ。
あれはオレが寝ぼけてただけ。
隣に並んだその端正な横顔を見上げたら、透き通る瞳がこちらを向いた。
心臓が、どくりと音をたてる。
「……和成?」
宝石みたいな翠の瞳。
フラッシュバックする、表情。
「っ、ごめんごめんボーッとしてたわ!行こ、真ちゃん!」
目を反らすように追い抜こうとしたら、するりと手を捕まえられた。
綺麗な、真ちゃんの指が。オレの指に絡む。
「和成、急ぐと転ぶのだよ」
「っそんな、ガキの頃じゃあるまいし……」
「いいから」
引かれた手を振りほどく理由が、オレには見つからなかった。
(13/8/1)
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