夜の帳と逆さまの月
『オマエをオレのげぼくにしてやるのだよ』
初めて真ちゃんが喋ってくれたことによる嬉しさで、小さかったオレはよく分からないままに「わかった!よろしくね、しんちゃん!」と頷いた。
照れ臭そうに「よろしくしてやらないこともない」と視線を反らした真ちゃんとは、それ以来ずっと“幼なじみ”だ。
『真ちゃん、今年もクラス同じだぜ!』
『そんなもの見ればわかるのだよ、高尾』
何故か真ちゃんは中学半ばからオレを苗字で呼ぶようになった。
それがなんかイヤで。
『真ちゃんがオレのこと高尾って呼ぶならオレも緑間って呼ぶ』
って不貞腐れたら。
『意味が分からんオマエはオレの下僕だろう何故苗字で呼ぶ必要があるのだよ!ちゃんと今まで通り呼べこのバカめ!!』
となぜか逆ギレされた。
真ちゃん、理不尽すぎるよ。
それからは、人前以外ではちゃんと名前で呼んでくれるようになったからまあヨシとしよう。
そんな真ちゃんはあんまりコミュ力ないから誤解され易いけど、ちゃんと優しいとこがあって、オレは何だかんだと言いながらずっと隣で幼なじみやってたいなーって思ってたわけで。
だから。
あの日。
『和成…、』
伏せられた瞼が隠す翡翠の瞳が、見たことないような苦し気な色に染まってオレを見つめていたことを。
目を閉じたオレの唇に、そっと真ちゃんのそれが触れたことも。
ぜんぶ。夜の魅せた幻だと。
知らないフリをしたんだ。
真ちゃんは、大切な幼なじみで。
それ以上でもそれ以下でもない。
(13/8/1)
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