実渕サンと女子力






「あら、和クン」





同じ高校男子とは思えない実渕サンのキレーな指がオレの唇をなぞる。
一瞬。背中がぞくりと震えたけど、覚られたら色々と負けだと平静を装う。





「実渕サン……?」

「ヤダわ。せっかく綺麗な形の唇なのに、カサついちゃってるじゃない」

「あ、まじですか?」





気にしたことなかったなあと自分の舌でペロリと一舐めしたら、驚いた顔をされた。





「ダメよ、和クン!唾液だと余計荒れちゃうんだから!」

「え、そうなんですか?」

「リップは持ってないの?」

「や、持ってないです」





というかリップクリームを常備している男子高校生とかいないだろ。
と思ったけど、いた、目の前に。

「もー仕方ないわね」と鞄から当たり前のようにリップを取り出す実渕サンに驚愕しつつこの人ならまあ持ってるよなそうだよな、と思わずその潤った唇を見つめてしまった。





「私の貸してあげるわ」

「あ、はい、どうも」





受け取ったあとキャップを外しながら横目に実渕サンの顔を眺める。
ほんとに、緑間とはまたジャンルの違う美人さんだ。

長い睫毛や、きめ細かい肌、艶やかな黒髪。どれを取っても其処らの女子には負けてない。





「実渕サンって、ほんと女子力高いですよねー」





言いながら、ハタと手を止める。

あれ?

これ、フツーに使っちゃったけど、普段実渕サンが使ってる、ん、だよな?





「……っ、あ、み、実渕サンっ!」

「え?なあに?」





目が合って、顔が真っ赤になる。





「かっ、間接ちゅー……しちゃいました……!」

「ブファ!!」

「ちょ、実渕サン?!」





いきなり勢いよくテーブルにうつ伏せるもんだから戸惑う。
やばい、怒っては、ないと思うけど。

上手く言葉が出てこないオレに、緩やかに顔を上げた実渕サンが、ぽつりと呟いた。





「和クンの女子力も、なかなかだと思うわ……」

「へ?」








(とりあえず今から一緒にリップ買いに行きましょう)





(13/7/21)



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