笠松サンの背中





最初は、純情な敬意。



敬慕が恋慕に。



そしてあの人の隣に。



……立つ自信はまだないから。
その広い背中をもうちょっとだけ、眺めていてもいいですか?










笠松サンとの待ち合わせに張り切りすぎて一時間前に来てしまったとか。
近くのマジバで時間を潰そうと思ったら、綺麗なオニーサンに声を掛けられてしまったとか。

わりと笑えない現状なう。なーんて、茶化してみても突っ込んでくれる人もいない。

てか実渕さんといい、なんなの?オレ。美人なオニーサンを引き寄せるオーラ的なもんがでてんの?





「キミみたいな可愛いコ、二度と出会えないと思うんだ……」

「はぁ……」

「だから、」

「オイ」





美人さんがオレの横に座ろうとしたのと、ドスの効いた声が落ちてきたのとは。ほぼ同時だった。





「あ、笠松さ」

「テメー……高尾に何か用か?」





名前を呼ぼうとしたら遮るように笠松サンが告げる。
不快そうな顔を隠しもせず、美人さんを睨み付ける眼光は鋭い。
ぶっちゃけオレでも怖い。

固まっていたオニーサンは余りの迫力に恐れ戦いたようで。慌てて踵を返して去っていった。

ホッ息をつく間もなく、どかっと前に座った笠松サンの視線が今度はオレへと向けられる。





「オマエ、何絡まれてんだよ!女子か!!」

「す、すみません」

「誰でもイイ奴ばっかじゃねーんだよ!ちゃんと追っ払え!」

「は、ハイ!」





思わず肩を跳ねさせたのに気づいたらしく、気まずそうに視線を外す笠松サン。
でも確かに男のくせに男に絡まれるとか、ないよな。





「あー……っ落ち込むなよ、元はといえば気安く声を掛けてくる向こうが悪ィんだからよ」

「えっ?」

「つうか、ほら、今から遊ぶのに……オマエがそんなんだと、あれだろ。ツマンネーだろ、オレが……」

「……っ」

「高尾は、笑ってるほうがイイ」





ぽつりと呟かれた言葉とその少し赤く染まった横顔に、愛されてるなあって感じる。

熱くなった頬を悟られないよう、オレはいつものように笑ってみせた。





「オレ、気にしてないです!もう笠松サンのことしか考えてないし!」

「?!!ばっ…たっ、おっ……〜〜ッ!」

「笠松サン?」

「だぁー!なんでもねえよ!オラ、行くぞ高尾っ!!」

「はいっ」





立ち上がってさっさと歩き出す笠松サンの背中を見つめる。

ぶっきらぼうだけど、ちゃんと伝わってくるから。ほんとに好きで好きで堪らなくなるんだ。
だから、もう少しの間は。

その背中を追いかけていよう。








(待ち合わせの45分前に)



(13/7/19)


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