緑間と雨の日











「しーんちゃん。帰ろ」

「ああ……」

「ぶっは!そんなイヤそーな顔しても雨はやんでくんねーよ?」





鞄を手にした真ちゃんの渋い顔に思わず噴き出せば、眉間のシワが更に深くなった。

部室を出れば雨雲が空全体を覆っている。
おは朝天気予報によると今日の夜いっぱいこの雨は続くらしい。

どんよりとした空を仰いでから、もっかい隣を見る。
ほんとに嫌そうな顔しちゃってまあ。





「ププ……っ、どうすんのそれ」





小綺麗な顔から、視線を少し落とせば。
その腕に抱えられた大きな白黒のアレ。愛らしい円らな瞳がこちらを見つめている。





「……」

「そのパンダくん、濡れちゃいそうだな」

「くっ……忌々しい天気なのだよ……!」





片手に傘、片手にぬいぐるみ。
鞄まで濡らさずに持つとなるとこりゃ一苦労だわーと他人事みたいに笑ってたら、折り畳み傘を広げかけた手を不意に抑えられた。





「え、なに真ちゃん?高尾くん絶賛帰る気満々なんだけど」

「それはオレも同じだ」

「うん。知ってる。でも傘ささないと帰れないよね?んでオレいまちょう傘さそうとしてるとこなんだけど」

「……」





深緑の目がジッとこちらを凝視してくるもんだから、思わず身を仰け反る。ぶっちゃけあんまり綺麗な顔を近付けないでほしい。
なんか色々とツラいから。

そんなことをぼんやり考えてたら、何かを思いついたような顔した後、緑間がオレの傘を奪い取った。

そう。奪い……。





「ちょ、え、はああ!?」

「よし、高尾。これを濡らさないよう大事に抱えるのだよ」

「え?ちょ、緑間?ええ、オレの傘」





奪われた傘はあっという間に鞄に押し込められる。そして戸惑ってるうちにパンダくんをグイと押しつけるように渡されてしまった。
咄嗟にその巨体を抱き締めれば、満足そうに頷くエース様。

そのまま混乱の渦中にいるオレの腕を有無を言わせない勢いでひっぱるから、オレはぶつかるように緑間に身体を寄せるハメになった。





「濡れないよう、しっかりくっついていろ」

「へ?え、なに?何なの?」





ばざりと広がった傘を見上げる。

そうしてなんの迷いもなく歩き出した真ちゃんはすぐに歩みを止めこっちを振り返った。





「何をしている、高尾。早く来い」

「え。ああ……もしかしてそれ、あー、そゆこと?」

「?……なんだ?」

「……」





コイツに他意はないんだろうけど。
無意識に頬が弛む。



何も言わないままもう一度隣に並ぶと、真ちゃんは確認するように「行くぞ」と小さく告げた。





「真ちゃん」

「何だ」

「……」

「高尾?」





いつもより近い距離で。
雨音に紛れるくらいの声で。

オレは笑って。








(真ちゃんと相合い傘、なのだよ)





(13/7/15)



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