黒に染まれ11
「さ、この辺なら人も来ないだろーし。思いっきり泣いてもだいじょぶふぉっ」
振り向き様に手を握ってた高尾の手を逆にひっぱったら、勢いあまった高尾がそのままオレの胸にぶつかる。
「……っちょ、青峰!人が…………、はぁ」
ぽん、と後頭部に回された手はひんやりと冷たく。
今のオレにはちょうど良い体温だった。
「……、オマエ、緑間はいいのかよ」
アイツに勝つことに執着していたはずの高尾。
その為にわざわざ桐皇に来て、オレを利用して。
なのにオレはオマエの期待に応えることも出来ず、緑間との再戦の機会すら与えることができなかったのに。
尋ねた声が無意識に震える。
情けねえ、けど、高尾を失いたくない。とオレは、心から。
「あのなあ……緑間の言ってたこと聞いてなかったわけ?」
「……」
「オレの言ったこと、聞いてなかったわけ?」
その声に含まれた悪戯っぽい色に。
オレは漸く顔を上げる。
橙色の鷹の目が、まっすぐにこっちを見上げていた。
「……青峰が、青峰の本気のプレイが、拭い去ってっちゃったんだよ。オレのちっぽけな執着心とか、そうゆうの、ぜんぶ」
「高尾、」
「オマエがオレを求めてくれたから、ずっとオレの視界で鈍色に光ってた光を、消してくれたから」
だから。
そう、高尾が笑う。
「オレは新しい光を見つけたんだよ。オマエっていう、綺麗な光を」
やけつくような、鋭くて、眩しい光を。
そっと頬に寄せられた唇に、固まっていたら。
お決まりの笑い声がすぐ傍で響いて我に返る。
「ぶは…っ!ちょ、ほっぺちゅーくらいで真っ赤になるとか、おま、純情か!」
「た、高尾ォ……ッ!」
完全な不意打ちに思わず顔に熱が集まり、それに爆笑しやがる高尾。
ムカついて両頬をわっしと掴んで上を向かせたら「いたいいたい!首がつる!」と騒ぐけど無視だ。
瞳のなかの互いの姿が確認できるくらいまで顔を寄せたら、さすがのコイツも一瞬黙る。
「……緑間からオレに、乗り換えるって、ことだよな」
「ブフォ……っちょ、言い方!」
「オレが、好きだってことだよな」
「……っ」
沸き上がる衝動を堪えて、ことばを重ねる。
「オマエを、オレのもんにしていいって、ことだよな」
高尾が小さく笑って。
「お好きにどーぞ」
そう告げた瞬間。
噛みつくようにその唇を奪った。
(陰影に隠れて、重なる)
(13/7/12)
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