黒に染まれ10









ホイッスルと共に、全身の力が抜けて。





ああ、そうか。





オレは、負けたのか。

そう自覚した。





高尾の方を振り返ることも出来ずにいたら、そっと背中を押される。





「ボーッとしてんなよ、ほら、行くぜ」





なんで。



どうして高尾がそんなに優しく笑うのかが、わからなかった。








オレらの冬は、あっさりと幕を下ろした。








会場の廊下を無言で進んでいたら向こうから見覚えのある緑色が見えて、一瞬、動きが止まる。
後ろを黙って着いてきていた高尾も同じように足を止めた。





「……青峰か」

「……よォ、緑間」





よりによってこのタイミングで会うなんて、最悪だ。
よくわかんねえ怪獣みたいな厳ついぬいぐるみを抱えた緑間を見れば、蔑むような視線を寄越す。

コイツが言いたいことなんざ、重々わかってるつもりだった。

だから、頼むから、今は何も言わずにさっさと消えてくれ。
なんて言葉に出さずに目で訴えたところでこの男に伝わるなんて最初から思ってない。





「無様だな、自分の力を過信し人事を怠った結果が今のオマエだ。有能なパートナーを得ても火神とは雲泥の差なのだよ」

「は、?」

「そこの……高尾といったか?」





その声に、ビクリと高尾が反応したのが横目に分かった。



ちょっと、待てよ。

なんで緑間。オマエが高尾のことを知ってる?

なんで気安く名前を呼ぶんだ。





「同じ一年としては中々の判断力と采配を振るうPGだと印象に残ったのだよ」





ヤメロ。

やめろよ。





「それに何より」





高尾を。



オレから奪うな。





「青峰のことを、誰より理解したゲームメイクだったな」

「……っ、?」

「何だ?気づいていなかったのか。……フン、だからオマエは負けたのだよ」

「あー、緑間クン?」





それまで黙っていた高尾が、初めて口を開いた。
緑間の意識が自分に向いたのを確認してから、いつものように、人当たりの良い笑顔を浮かべる。

その視線は緑間へと注がれているように見えるけど、実際のとこは高尾にしか分からねえ。



なのに、その横顔は。



確かに、「大丈夫だ」とオレに告げていた。





「ダメだしは今度まとめて受け付けっから、今日のところはそろそろ勘弁してもらえない?うちのエース様、こう見えてわりと傷心中だからさ」

「……フ、確かにそのようだな。本当にオマエは青峰のことをよく見ているのだよ」

「相棒だからね」








たった一言。



高尾の、そのたった一言に。





心が、震えた。





何か告げてから去っていく緑間なんて、もうオレの意識の外で。





目を瞠るオレを可笑しそうに振り返った高尾が、黙ったままこっちに近づく。








「行こーか、青峰」








重なった指が、二度と離れなければいいと。





本気で思った。








(天秤は傾いた)





(13/7/6)


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