緑間と月を眺める
「あー……寒ッ」
「冬だから当然なのだよ」
「うん、そりゃまあそうなんだけどさ」
隣を歩く高尾が笑えば白い息が零れる。
確かにここ数日で一気に冷え込んだように思う。
今日は雪になるかもしれないと誰かがぼやいていたが、空は綺麗な星空だ。月明かりが雲の切れ端から時折洩れ、オレ達の影を作った。
「てか星やべーな、この辺でもこんな見えるもんなんだ」
「上を向いたまま歩くな。転ぶぞ」
「へーい」
ケラケラと笑う高尾は、春に比べ随分と纏う空気が落ち着いた気がする。それは、高尾が変わったからのか、オレが変わったからなのかは分からないが。
オレの忠告にも、コイツは空を見ることを止めない。
「高尾」
「ごめんごめん!けど超キレイだからさー。あ、真ちゃんも見てみなよ!」
結局二人して立ち止まるはめになり、オレは顔をしかめた。
丁度その時。
雲間に隠れていた月が顔を出し、高尾の表情が露になる。
「……ッ」
「?真ちゃん??」
パッと目を反らした先に、僅かに欠けた月が此方を見下ろしていた。
「……っ月が、綺麗、なのだよ……」
「ああ、もうちょいで満月!って感じの月だなー!……ん?でもアレ今から満ちんの?それとも欠け……って真ちゃん?何で項垂れてんの??」
「…………」
コイツに情緒を求めたオレがバカだった。
溜め息をつくとさっさと歩き出す。後ろから何か言いつつも追いかけてくる高尾に自然と表情が弛んだが、決してこの感情を直接口になど出しはしない。
「早くしろ、置いて行くぞ」
「ハイハイ、仰せのままに!」
(今はその体温が隣に在るだけで、)
(13/1/7)
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