森山サンと笠松サン
「お、落ち着いてください森山サン。ねっ?冷静になって話し合えばわかりますって絶対おかしいってこの現状!」
「そんなにオレと愛について話し合いたいのか高尾、遠慮するな、オレならいつでもスタンバイオッケーだ」
「オレは何もオッケーじゃないんすけどね!ていうかビックリするくらい話が噛み合ってねえ!」
全く照れ屋なやつめ。
とか笑ってっけど違う。激しく違う。
練習試合で海常に来たのはいいけど体育館の裏の水飲み場で突然、涼しげな顔をした森山サンに壁に押さえつけられたのはほんの少し前の出来事だ。
いや、正しくは押さえつけられている、なう。つまり、進行形。
いややたら森山サンに見られてんな今日、何かすごい視線感じるんだけど。真ちゃーんこれ何視線だと思う?え、もしかしてオレなんか変なとこある??寝癖??ちょ、鏡かして?
そんなこと知らないのだよというかオレのラッキーアイテムを勝手に使うな!
てめえら試合前にジャレてんじゃねえよ轢くぞ!
とかいうやり取りを秀徳サイドでやったのもついさっきだ。
そのときから見られてたのは分かってたけど。いや、何で壁ドンされてんのオレ。
「森山サン?あの、話すにしたってまずはちょっと近すぎるかなー、なんて」
そろそろ現実を受け入れよう。
そうだ和成、全ては受容から始まるんだ。
そして言外に近えよ頼むから一回離れようぜというかむしろお願いします離れてください、と伝える。
しかしちょっと上にある顔を見上げれば、切れ長の目がわりとガチで優しく見下ろしてくるもんだから戸惑いしか生まれない。
どうしたのこれ。オレこの人になんかしたっけ。
「照れなくても大丈夫だ。オマエのそんな表情を今、こうして見下ろしているのも運命に導かれた結果だしな」
運命とか、緑間じゃあるまいし。と笑い飛ばせる空気じゃなかった。
そっと唇をなぞられ、背筋が震える。
「……っん、ちょ、も、森山サン!」
「やっぱり、思ってたとおり敏感だな」
いやいやいやいや。
なに思っちゃってたんすか。
さっきの熱視線に込められた真意をうっかり拾ってしまった気がして慌てて目の前の胸を押し返す。
が、何でかビクともしない。
いや何でだよ。まじで。
「……あ、あの……」
「高尾……そんなに熱く見つめられたら、照れブフッ!!」
森山サンの言葉は最後まで続かなかった。
というか、一瞬で視界が明るくなって。
眩しさと驚きで呆然としていたら、予想外の人物がそこに立っていた。
「帰ってこねえと思って見に来たら……っ何してんだこのドアホ!!」
「か、笠松さ」
「オマエも!こんなんに迫られてボーッとしてんじゃねえド突き返せ!!」
「ひゃい!!」
やべ。驚きすぎて噛んだ。
畏縮してるオレに気づいたらしい。森山サンをド突き倒した(正しくは蹴り飛ばした)笠松サンはハッとそのおっきな目を見開いたあと、バツが悪そうに頭を掻いた。
何か、仕草が一々男前だなあと感心して無意識に見入ってしまう。
「悪い、こっちの監督不行き届きだ」
「いっ、いえ!そんな、別に、オレの方こそ!からかわれたくらいでちょっと動揺しちゃってすみません」
「……は?」
ぽかん、と。
効果音が付きそうなくらい唖然とこちらを凝視してくる笠松サンに焦る。
オレ、何か変なこと言った?
「高尾……」
「ハイ!」
「オマエはオレが守ってやるから。そのままでいろ、いいな」
「へ?」
「にっ、二回も言わねーよ!じゃあな!!」
「えっ、ちょ、笠松サン……!?」
呼び止める声に振り返ることなく、笠松サンは文字通り森山サンを引き摺って颯爽と体育館へ帰って行った。
そして、残されたオレはというと。
黄瀬くんが「あれ、高尾っち顔が赤いっスけど大丈夫っスか?」と声を掛けてくれるまで、動揺のあまりその場を動けなかった。
(森山ァァ!あんだけ高尾には手を出すなっつったろ!!)
(笠松がモタモタしてるからだろ。あと高尾が可愛いのが悪い)
(っそれは否定しねーけど襲ってんじゃねーよこのバカ!!!)
((可愛いのは否定しないのか……))
(13/6/13)
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