緑間に渡す







授業中。高尾がコソコソと手元を隠すように何かをしていたからやたらそちらが気になった。

が、オレまで授業に集中せずに気を漫ろにするわけにはいかない。
そう自らに言い聞かせ黒板に意識を向けたそのとき。



ぽとりと、折り畳まれた小さなメモ紙が机に落とされ、固まる。





(高尾ォ…キサマは何をしているのだよ……!)





その紙を落とした張本人を横目で睨むと、いつものように阿呆のような笑みが返ってきて毒気を抜かれる。

仕方無しにそのメモをそっと広げれば、見慣れた高尾の文字で。





『しんちゃんのじゅぎょーたいどまじりすぺくちゅー。べんきょーおしえて』





特に意味も何もない言葉が書かれていた。
イラついてとりあえずくしゃりと握り潰せば「あっ、ひでー!」と高尾が小声で呟くのが聞こえたが無視だ。

再び黒板の方に意識を向けたオレの手元に似たようなメモが落とされたのは、その直ぐ後で。

いい加減にしろ、と高尾の方を睨み付ければ。





(み・て)





口パクでそれだけを伝えて来る。
ため息をついて、もし次も下らない内容だったらあとで覚えていろとメモを開いた先にあった言葉に。
顔に熱がこもったのは、不可抗力だ。



そこには。
たった二言。





『しんちゃん、すき』








(最短距離のラブレター)





(13/5/23)



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