黒に染まれ7
場所を人目につかない所まで移動して向き直れば、わざとらしく困った表情をする高尾が視界に入った。
「青峰、顔が怖いんだけど?あ。元からか」
「うっせ」
軽口を叩くからいつもの調子で頬を引っ張りかけて、触れる直前で躊躇う。
けど、止まったオレの手を見つめて高尾は笑った。
「青峰。オレね、オマエのことすっげえ好き」
「……ッ」
甘ったるい笑顔を浮かべたコイツは、続けて惨たらしい言葉を吐こうとしてる。
すぐにそれが分かったけど止める術なんて持ってねえ。
「……っていうオレの甘言を真に受けちゃった?青峰、思ってたよりピュアだね。最初に言ったっしょ。オレは、オレの目的の為にオマエを利用するって」
そう。
そんなことは、とっくに、わかってる。
だけどな、嘲笑うようにこっちを見上げてくる瞳が、僅かに揺らいだのをオレが見逃すと思ったのかよ。
「……っ!あ、青峰……ッ」
その手首を掴んで体を引き寄せれば、春から今に至るまではじめて、それらしい抵抗をみせた高尾に自然と笑みが浮かぶ。
今度は迷いなく捕まえた。
オレの胸に押しつけるように抱きしめたら、離れようと身動ぐけど離す気はさらさらない。
「ちょ、離せ…って!」
「なんだよ。オレがオマエに触るのなんて今さら、だろ」
「いや、なんていうか、気持ちの問題?そーゆ、感情はねえから、オレは」
「オレにはあんだよ。高尾、オマエをオレのもんにしてぇ」
「……っ!」
まさかオレがそう返すとは予想してなかったんだろう。
驚いた顔をしてる高尾に笑いかければ、いつもヒラリとかわしていくその翼に少しは傷をつけたらしい。その表情が崩れる優越感といったら。
もういっそカゴにでも入れて、飼い慣らせたらいいのに。
とか思うオレは、歪んでんのか。
「……もー、青峰……オマエさ、ぜってー無自覚だろ」
「……は?」
崩れた表情の向こう側に見えたのは、嫌がる顔でもあの含みのある笑みでもなく。
そっと伸ばされた高尾の手が、オレの頬を撫でた。
いつもとは異なる、優しい指先に、心臓が大きく音をたてたような気がした。
「そんな、悲しそうな顔で、言ってんなよ」
オレの隙間にあった甘さにつけ込んだオマエの優しさに、今度はオレがつけ込む。
確実に拗れたなにかを、そっと伏せられた瞼に唇を落とすことで。
見ないフリして。
(閉じたハコに鍵をかける)
(13/4/2)
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