黒に染まれ6
アレはオレもさすがにないと思うわ。
つかやったのオレだけど。
あのあと。呆然とした感じの高尾に名前を呼ばれて我に返った。
思ってたより柔らかくて少しかさついた唇の感触が一気に蘇って。オレは持ち前の運動神経を遺憾なく発揮し逃げるようにその場を後にしたわけだが。
それから翌日の今日に至るまで、アイツからは何のアクションもない。ちなみに顔も合わせてない。
つか高尾、ちゃんと風邪、治ったのか?
「青峰くん」
「あ?」
クラスも違うし様子見に行くにもイマイチ踏ん切りがつかねーしで、もういいとりあえず授業サボろうと廊下を歩いてたら、幼なじみに呼び止められた。
昨日は結局コイツにも連絡とってねえわ。帰ったら電話しろとか言われてたの顔見て思い出した。
何か言われっかもと少し構えてたら予想に反して、さつきは頗る機嫌がいい。
「昨日はありがとう、って高尾くんから伝言だよ!私も差し入れのお礼言われちゃったけど」
「高尾、今日学校来てんのか?」
「え?うん。部活にも来れそうってさっき言ってたよ」
「……そうかよ」
なんだよそれ。
昨日は、って。
高尾はあのこと、怒ってねーのか。
……むしろ、気にすらしてねえのか。
そのことが無性にムカつく。
なんで、ここまで、一方的なのかと。
「?青峰くん??」
方向転換したオレを不思議そうにさつきが見たのはわかったけど、構ってる余裕はなかった。
辿り着いた教室のドアを開ければ、手前にいた女子がギョッとしたようにこっちを向いた。
「わりぃけど、高尾呼んでくんねー?」
もう。めんどくせーから色々考えんのはやめだ。
振り向いたアイツの瞳が、オレを捕らえた。
(視えない硝子の向こう側)
(13/3/21)
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