黒に染まれ5
つか。
寝てたら誰がこのドア開けんだよ。
高尾が住んでるらしいマンションの扉の前で固まってたら、いきなりそれが開いてガラにもなくビビってしまう。
ポカンと見上げてくる高尾だけど、たぶんオレも似たような顔で見下ろしてんだろうな。
「……よォ」
「おぉ……とりあえず入る?」
いつもよりユルいカッコの高尾が促すから、オレはコンビニの袋をぶら下げたまま後に続いた。
「つうか、どっか行くつもりだったのか?」
「あー、うん。スポドリと冷えピタ買いにコンビニまで」
「それならさつきに言われて買ってきた」
「まじで?わーさんきゅ」
へにゃ、と気の抜けた笑顔に自然とこっちも気が抜ける。
さっさとベッド入れと押し込めば、特に抵抗せず高尾は言う通りに横になった。半身だけ起こしてオレと向き合うようなかたちだけど。
デコに触ると、思った以上に熱い。
「オマエ、どんくらい熱あんの?けっこう熱ィけど」
「さあ?」
「は?」
「オレん家体温計ないのなー。朝は体動かなかったから学校休んだけど…今はちょっと動けるから下がってんじゃね?」
「高尾……」
コイツは。なんで自分のことにはルーズなんだ。人のことはムダによく気づくクセに。
コンビニ袋からゼリーを取り出して手渡す。
「オラ、食え」
「ちょ、優しさを感じない」
笑いながら受け取った高尾がちまちまとそれを口にするのを眺めてたら、不意にさつきに言われた言葉が頭をよぎった。
そういえば、コイツも。
肝心なことは多く語らないよな。
「なんかわざわざワリィなー、まさか青峰が来るとは思わなかったけど。桃井サンに何か言われた?」
「いや……言われた、けど、別に嫌々来たわけじゃねーから勘違いすんなよ」
「ふはっ!なにツンデレ?」
「ちげーよバカ!」
「ん、分かってる。ありがと青峰」
ああ、そうか。
あっさりと。
そのバカみてーな笑顔に答えが零れ落ちる。
高尾が、緑間に依存しているように。
オレも形こそ違うけどコイツに依存してんだわ。
好きだとか、生易しい感情じゃない。
開けた視界に映った高尾は、相変わらず無防備にオレを見上げている。
少しだけ笑ってから。
その熱の籠る唇に、キスをした。
(割れて砕けた優しい純粋)
(13/3/20)
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