黒に染まれ
アイツが見てるのは鮮やかなまでの緑。
オレとはまるで真逆の位置にいるようなあの男。
そして、アイツ自身も。
オレとは違う場所に立っている。
手を伸ばせば捕まえられる?
ンなの最初からムリだってわかってたんだよ。
「よ、大ちゃん」
「ブファ!ちょ、高尾オマエ……っ、その呼び方ヤメロ!!」
「桃井サンの真似しただけだっての」
屋上で微睡んでたら、いつもどおり惜し気もなく脚を晒した練習着姿の高尾に呼ばれた。
もういっそ見慣れた光景。
辺りを包む空気が熱気を帯始めた6月。
そろそろオレの憩いの場であるココも梅雨の影響を受け出す季節だ。
「さー、練習行こうかあ」
「……。だりぃ」
「青峰」
いきなり真顔で視線を合わせてくる高尾に身を引きかけたけど、よく考えたら背中は貯水タンクに預けてるしこれ以上退がれねえ。
すぐ間近で光る鷹の目はなかなかの迫力だ。
「使わない筋肉ってさ、「あ、もう仕事しなくていーんだひゃっほう」つってどんどん衰えてくんだぜ?」
「……ッ」
妖しく笑う姿が様になってやがる。
つい、と伸ばされたその指がオレの腹に触れて、思わずビクリと反応してしまう。
「ほら、こんな鍛えられてる腹筋もすぐにブヨブヨになっちゃうかも……」
「あークソッ!わかった行きゃいんだろ!!」
誘惑を振り切るように立ち上がれば、ニッコリと邪気のない笑みを向けられた。
コイツ。ぜったい分かってやってんだろ。
「な、青峰。手ェ繋いでく?」
「は?」
するりと絡んだ指と高尾の顔とを交互に見やる。
満足そうに微笑んだ姿に、心臓の辺りがぎりぎりと締め付けられるような錯覚をおぼえた。
「青峰って優しいからさー、振りほどいたりしないもんなあ」
その笑顔がつくりもんだって。
心のどっかで、ちゃんと分かってるつもりなのにな。
(曖昧な距離を殺して)
(13/3/15)
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