伊月サンのダジャレ







「あ」

「あっ、どーも」

「あ、ご丁寧にどうも」

「ブフォッ!いやむしろご丁寧に……っ」





買い物がてらちょっと足を伸ばしたら、予想外の人物に出会した。
涼やかな目元と表情で、オレと似た能力の持ち主なのに印象は全然違う。誠凛の先輩。





「伊月サン、買い物すか?」

「ああ、テーピングがきれてたから買いに来たんだ……が、こんな所で秀徳の選手に会うとは思わなかったな」

「オレもですよー!」





柔らかい物腰だなあって感心する。
試合のときとはやっぱり別人だわ。





「しかし、試合中とは別人だな」

「へっ?」

「いや、悪い意味じゃなく、その……キミはまさに猛禽類みたいだな、と思っていたから」

「も、もーきんるい、っすか」

「鷹や鷲、肉食の鳥のことだよ」





ニッコリ微笑まれる。
そうか、オレ、そんな風に見えてたのか。
そんなに攻撃性滲み出てんのかよと思うと少し気まずい。試合中の自分がどう見られてるかとかあんまり考えたこともなかったな、とボンヤリ思った。





「普段はこんなに明るくて気さくで鋭さなんて全然ないのに」

「…えっ、そうですか?いや、でもむしろそれを言うなら伊月サンこそ」

「え、オレ?」

「全くもって似たよーなこと思ってました!伊月サンの場合はすげえ落ち着いてて大人!って感じですけど」

「そんな、」





あ。照れてるカワイイ。
ちょっと伏し目がちなった伊月サンはさっきまでとまた違った顔。
何か、やっぱり人間喋ってみないとその人間性とかってわかんねーよな、って改めて思う。





「オレ、誠凛の選手たちを侮りすぎてたなって実感してる毎日っすよ」

「え?」

「正直、すみませんけど、その無名校だったし、新設校だし」

「ああそれは仕方ないだろう。去年だって、あんな結果だったから」

「楽な相手なんて、いるわけないんすよね」





ほんとに恥ずかしい話。と、自己反省してたら何か急に閃いた顔で伊月サンがすごいイイ笑顔になった。





「“高尾”が“高を”括ってたんだな!キタコレ!!」

「ブフォォッ!!」





ちょ、何言い出すのこのひと……!





「い、伊月サ……ぶはっ!え、なに、今の、まさかダジャレ、っすか……っ」

「!え、高尾、ウケた……のか?」

「いや爆笑なんですけど……っど、どの顔でダジャ……ぶは!ダメだウケる!!」





失礼と思いつつ腹抱えて笑ってしまう。
伊月サン、こんな綺麗な顔してんのに面白い人だったのか。

一頻り笑いきった頃いきなり両手を握られ、オレは慌てて向きなおった。





「わ、笑いすぎてすみま」

「ありがとう高尾。次に会うときまでに、もっとイイダジャレを考えておくから」

「えええ…っ?」





戸惑いまくるオレにすごくイイ笑顔を向けて、伊月サンは「ありが十ぴきいるよ、ありがとー!」と手を振りながら去っていった。



残されたオレが、しばらく笑いのあまりその場を動けなかったなんて、あの人はたぶん知るよしもない。








(オレのダジャレは……イケるっ!)



(13/3/9)



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