緑間のくま








「どーしたのだよしんたろー?なんだか元気がないのだよ!」

「……。オマエは何をしているのだよ」





突然オレの今日のラッキーアイテム、くまのぬいぐるみをまるで腹話術でもするかのように動かし喋りだす高尾。
わざと拙い話し方をしてよく分からん役作りまでしている高尾に呆れた視線を送るが、その道化を止めるつもりはないらしい。

くまの手首のあたりをクイッと捻ってどうやら挨拶をさせているようだ。





「ぼくはくまなのだよ、しんたろーが大事にしてくれたから心が宿ったのだよ」

「……せめてその喋り方は何とかならないのか」

「しんたろーのくまだから仕方ないのだよやれやれ」

「ぬいぐるみのクセに随分と態度のデカい奴だな……」





項垂れる仕草に僅かばかりの苛立ちを感じる。
いや待て相手はぬいぐるみ……いや違う相手は高尾だ冷静になれ。
そう自分に言い聞かせ、眼鏡のブリッジを軽く押し上げた。
そのとき。






「てか真ちゃん、まじで何か顔色悪くね?もしかして風邪?」

「……っ」





何の前触れもなく。
高尾の手のひらが、オレの前髪を掻き分け額へと触れた。

ビクリと跳ねた肩には気づかれなかったろうか。
固まる此方のことなど意にも介さず「やっぱりちょっと熱いよ」と更に言葉を重ねられる。

心配そうな色が浮かぶ瞳に偽りは感じられない。





「真ちゃん?」

「……、気にするほどのことはない」

「そーか?ムリはすんなよ」





額から外された手がまたぬいぐるみを玩ぶ。





「だって、しんたろーはだいじなエース様なのだよ!……なーんてな?」

「……。真似をするな」





視線を外して呟いた台詞は、照れ臭さを隠すためのものだと。きっと目の前で笑うコイツには悟られているのだろう。








(だが決して不快には思わない)



(13/2/23)



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